まだアメリカがトランプ政権だった1月5日に、ロサンゼルスの港湾でユニクロ(ファーストリテイリング)の綿のシャツの輸入が差し止められていたことがわかった。ユニクロ側はこの措置についてアメリカの税関に解除を求めていたが、米国土安全保障省がこれを最終的に拒否していたことも判明した。
ユニクロは差し止めの対象となった製品には、強制労働が問題とされた「新疆生産建設兵団」製の綿は使っていないどころか、そもそも中国製の綿も使用しておらず、同命令には違反していないと主張したが、同省はこれを裏付ける実質的な証拠が提示されていないとして訴えを退けた。
ユニクロとしては、中国製の綿を使っている製品はアメリカに輸出せずに、例えばアジア地域だけで売るとか中国国内だけで流通させるとかすれば、制裁対象から外されると考えたのであろう。だが、アメリカはそんなことは認めなかった。
ウイグルから調達した綿花を使用しているかという記者の質問に対し、柳井会長は「これは人権問題というよりも政治問題。われわれは政治的に中立なんで。これ以上発言すると政治的になりますんで、ノーコメントとさせていただきます」と返答したことはよく知られている。この返答には「この話は米中対立の中で作り上げられた政治的産物でしかなく、本当は人権問題として扱うのは適切ではないと思う」というニュアンスが感じ取れる。
私は日本人としてユニクロを応援したい気持ちはあるが、柳井会長の発言を聞いていると、ウイグルの人権問題の大きさがよくわかっていないのではないかとも思う。
ウイグルでは出生率が2017年から2019年の2年間で半減している上に不妊手術も急増していることを、柳井会長は恐らくご存知ではないのだろう。そうであれば、ウイグルの女性たちが「自ら進んで不妊手術を受けている」との説得力の薄い説明を中国側が行っていることなど、柳井会長が知っていることはないだろう。それゆえの「政治的に中立」という発言なのだろうが、それにしてもこれでは中国に対する認識不足を指摘されても仕方ないと言わざるをえない。
柳井会長がウイグルの実態についてよくわからないとしても、香港でどんなことが行われているかはさすがにわかっていないということはないだろう。西側のメディアが普通に入り込める香港であれだけのことが実現されていることを考えれば、西側メディアが入ることに厳しい統制が取られているウイグルでどんなことが起こっているのだろうか。その想像力を柳井会長には持ってもらいたいものだ。
柳井会長は決算発表で「地球上の全ての国、全ての個人はつながっています。自分さえよければという姿勢で自らの利益を守ることもできません。企業は社会的な存在です。社会があって初めて企業があります。世の中にとって良い企業、人々の役に立つ企業であればあるほど大きく成長する、そういう時代です」と語っていた。柳井会長のこの発言は単なる建前ではなく、本当にそう思っているのだろうとは思う。
そのうえで柳井会長に尋ねたいのは、中国共産党は「自分さえよければという姿勢」を組織的に取っている団体ではないのかというところである。彼らが力をつけ、もしも世界をリードする立場に立つ勢力になったら、どんな世界になるのかの想像力を柳井会長が働かしているとは私には思えない。
「社会があって初めて企業がある」というのも同意するが、その「社会」が公正・公平を大切にするかどうかが極めて重要だという視点を、柳井会長は持っているのだろうか。
柳井会長は時折日本政府の政策に厳しい批判・注文を公然と口にする。それは日本という国が、政府批判をしたところで嫌がらせなどされることがないからだろう。では柳井会長は中国政府に同じような厳しい批判・注文を公然と口にしているだろうか。そんなことがとても口にできない事情がわからないほど、私はバカではないつもりだ。中国に公正・公平が存在しないことくらい、柳井会長はよくわかっているだろう。だったら、中国から静かに撤退すべきではないのか。
ところがユニクロの中国店舗の数は年々増えている。2016年8月期には472店だったのが、2020年8月期には767店にまで増えた。しかも中国店舗数の海外事業での割合も、49.3%から53.3%に上がっている。中国依存をますます深めているのがユニクロの実態だ。
今や中国は輸出管理法を制定した。アメリカの要請に基づいて対中取引を制限すれば、中国側の制裁を受けるようになっていることを、柳井会長が知らないはずはない。中国進出企業に「懲罰的処置」が加えられる可能性があり、その運用に恣意性がありうることも柳井会長が知らないはずはない。アメリカにも中国にもいい顔をするということはできない。そのことを今回のアメリカでの輸入差し止め事件は如実に語っているとは言えないだろうか。
中国べったりの姿勢を見せていたイーロン・マスクのテスラに対して中国がどんな仕打ちをしたかも、柳井会長は見ているであろう。先進的な電気自動車の技術さえいただければテスラは用済みだとして、手のひら返しをされたと見るべきである。中国に対してどれほど忠誠を示したところで、もういらないと判断されたら、冷酷な動きに出るのが中国という国だということを、本当に理解してもらいたいものだ。
表面的には中国ベッタリと思われる姿勢を見せていてもそれは仕方のないことだとも思うが、現実の中国リスクの大きさを考えた対応を柳井会長が真剣に行っているとは全く感じられない。それが極めて残念である。
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www.bloomberg.co.jpの記事
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-19/QTC4PET1UM1201
www.huffingtonpost.jpの記事
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6070c71cc5b6616dcd7818c5
rulings.cbp.govの発表
https://rulings.cbp.gov/search?term=uniqlo&collection=ALL&sortBy=RELEVANCE&pageSize=30&page=1
中国のユニクロの画像
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/7/3/670m/img_73c59e015c7b3bc0da183e750570603e111927.jpg
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