人権・民主主義

習近平体制が崩壊する?? 李克強が路線修正へ!(朝香 豊)


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武漢での新型肺炎治療の指定病院とされている「武漢市第五医院」の様子を撮影した、武漢市在住の民主活動家・方斌氏は、以前のブログ記事にも書いたように、「防疫部門の職員」に数時間拘束され、警察にデスクトップパソコンとノートパソコンを押収された。

方斌氏の命がけの行動には、頭が下がる思いだ。

私がここで命がけと言っているのは、2つの意味でである。

1つは、当然ながら、コロナウイルスが蔓延していて、自分が感染してしまうリスクが極めて高くなることを承知の上で、病院どころか入院患者のいる病室内部の様子まで撮影していたことだ。

まさに決死の覚悟である。

そしてもう1つは、こんな動画をアップしてSNS上に上げたら、警察に拘束されるのは中国では当たり前のことで、その後の命もわからないからだ。

ところが意外にも、方斌氏は拘束数時間で解放されている。

これは従来の中国では異例のことだ。

特に習近平体制になってからは、こういう点での情報統制は特に厳しく、とても習近平体制下だとは思えない事態になっている。

方斌氏はこの短時間での釈放を、SNS上の動画をシェアしてくれた人たちのおかげであると、釈放後に感謝の言葉を述べているが、ここでもまた、注目したいところがある。

それは、方斌氏の動画が削除されることなく、拡散が許されていたという点だ。

今回の武漢発の新型肺炎に関することだけなのだろうが、中国共産党の情報統制はかなり緩んでいることがわかる。

中国人YouTuberが、中国国内のSNS上に載った武漢市民の動画を紹介していたりするのを見かけたが、その中には政府批判をするようなものもあったりする。

これまた、別のブログ記事で紹介したものだが、12月中にSNS上で、この新型肺炎のウイルスについてSARSウイルスではないかという指摘が、医者たちだけが集まるグループで議論されていたことを紹介した。

この8名の医者は、社会を惑わす不届きな行為を行ったとして、拘束・処分を受けていた。

この件について、中国の最高裁判所にあたる最高人民法院は、「彼らに悪意はなかった。SARSとは異なるが、情報は完全なデマとは言えない」との判断を示した。

医者は患者を診察し、出ている症状の類似性やどういった治療が有効かという所見から、SARSだと言っていたわけであり、厳密に遺伝子配列を解析して述べていたわけではないし、そんなことが普通の医師にはできるわけがない。

結果的にはSARSではなく、SARSに似た別のウイルスだったわけだが、だから「デマ」だというのはどうなんだろうという話になる。

最高人民法院は「もし市民が情報を信じてマスクの着用や消毒をきちんと行っていれば、新型肺炎の予防に役立った」という指摘をして、この8人の医師の名誉を回復した。

当局による情報統制が却って問題視され、良心的なものであれば自由な言論を認めたほうがいいのではないかという見解を、最高人民法院が示したのだ。

これは従来の習近平政権の下では、全く見られなかった動きだ。

自分がこうした点で注目しているのは、李克強首相が「中央應對新型冠状病毒感染肺炎疫情工作領導小組組長」、つまり中国の中央政府の新型肺炎対策チームのトップになってから、こうした動きが出ているというところだ。

習近平主席からすれば、今回の新型肺炎に関して責任を取らせるためのスケープゴートとして、李克強首相を対策チームのトップに据えたつもりだろう。

対策チームのトップとして、克強首相は自ら武漢入りし、病院関係者を激励した。

そこでは「みんな頑張ろう!」「オー」みたいな、実に白々しい猿芝居も行われたが、コロナウイルスの感染のリスクを負いながら、敢えて武漢入りした李克強首相に対して、中国国民は高い評価を与えているようだ。

李克強首相の指導の下で、この新型肺炎に関する情報については大いに緩められ、自由な言論が中国のSNS上でも盛り上がったものだと思われる。

上訴された事案でもないことに対して、最高人民法院が異例の判断を敢えて示したのも、こうした李克強首相の後ろ盾があってのことだろう。

ジャーナリストの福島香織氏は、中国の国情から、中国国内では習近平国家主席に対する不満は全く言えない状態であるが、国外に出て、盗聴されたり監視カメラで映されたりする心配がなくなると、中国の要人クラスでも習近平体制に対する不満がいろいろ出てくると、指摘している。

つまり、国内には習近平体制に対する不満が鬱積しており、これに代わる新しい流れを求める思いが充満していたわけだ。

この流れに乗れば、習近平体制を打破して、自分が権力の座に就くことができると、李克強首相は考えているのではないだろうか。

今の中国には、中国共産党が崩壊した時の受け皿がない。

多くの人々が集まる組織を、中国共産党は徹底的に潰してきた。

気功と精神向上を結びつけることで、爆発的な人気を獲得した法輪功という団体には、一時期は1億人もの中国人が入っていたために、徹底的な弾圧を受けた。

生きている人から臓器を奪う生体臓器移植は、この法輪功のメンバーが一番大きな犠牲者になっていると言われている。

宗教弾圧では、ウイグルにおけるイスラム教徒への弾圧が有名だが、中国では仏教であれ、道教であれ、キリスト教であれ、みんなひどい弾圧を受けている。

これらもまた、中国共産党崩壊後の受け皿を潰すための行為だ。

中国の人たちにとっては、中国共産党が完全に潰れて、それに代わるまっとうな受け皿があるのが当然好ましいと思われるのだが、残念ながらその選択肢は現段階ではなさそうだ。

とはいえ、今の習近平体制が崩れることだけでも大きいことだろう。

李克強首相は安徽省の貧農の家庭の出身だが、抜群の頭脳のよさを発揮して北京大学法学部に入学し、北京大学の全校学生会責任者となり、首席に近い成績で卒業したと言われている。

頭のキレは並ではないし、非常に高い事務能力を持っている点も評価されている。

習近平主席は「トラもハエも叩く」という汚職潰しによって庶民の心を掴んだが、経済状態の悪化には全く対応できていない。

悪化の一途の経済に対して対応する必要もあって、習近平主席はどんどんと言論統制と人民監視を強め、社会はどんどんと息苦しくなった。

これに対するアンチテーゼを示していけば、李克強首相は中国の人たちの心をつかむことができるだろう。

打ち出すイメージとしては、自由な言論空間を部分的に開放して、緩やかながらも情報公開を進め、なんでもないようなことでは逮捕されたりしないような社会に変えるという方向性だ。

今の中国共産党内部の状況では、反習近平派の求心力となる人物を求めていたともいえ、李克強首相がその任を担うというのは、ある意味では自然なことだ。

なんでもかんでも「デマ」扱いしたことが、今回の新型肺炎の蔓延につながった根本原因だという点を打ち出しながら、その原因が習近平体制のあり方にあると批判していくのであろう。

こうしたコントラストを明確に打ち出すことによって、中国共産党内部で政変が起こるというのは、あながち間違った見方ではないと思う。

3月には全国人民代表大会や全国政治協商会議が予定されている。

ここがひっくり返るターニングポイントになるのではないだろうか。

当然ながら、習近平主席は李克強首相を潰すための行動を仕掛けてこようとするだろう。

だが、習近平路線に大いに不満を持ってきた中国のマスコミは、李克強首相からの指図がなくとも、勝手に李克強首相推しの報道を行っていくことは容易に予想される。

英雄的に扱われる李克強首相を、習近平主席がバッサリ切るのは難しいだろう。

しかも李克強首相は新型肺炎対策で動き出したばかりだから、これで責任を取らせるにしても、今すぐというわけにはいくまい。

したがって、この戦いは李克強首相側が勝つのではないだろうか。

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