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インドネシアのジョコ大統領といえば、日本の受注が確実視されていた高速鉄道計画(ジャカルターバンドン)を、中国側に落札させた親中派のイメージが強い。
この事件のあらましとその後の顛末を以下に述べておきたい。
この鉄道計画に関して、日本は、全長142キロの路線について、しっかりとした地質調査もすべて済ませ、どこに鉄道を通すべきかの詳細な路線図も用意していた。
インドネシアは火山も多く、地形も複雑なため、この路線図の作成にはかなりの労力と時間が必要だった。
だが、インドネシア政府は、この路線図を密かに中国側に流すという裏切り行為を行い、中国側は地質調査費用など全く負担することなく、日本案を丸パクリする形で、やすやすと入札に参加してきた。
中国側はこの受注を獲得するために、工期的に絶対に無理だと思われた2019年の次期大統領選挙に間に合うように開通させるとした。
さらに中国は、インドネシア政府の財政支出や債務保証を必要としないとする案を提出し、これが決め手となって、中国案が採用されることになった。
しかし、建設をすすめるに際しての中国側の提出書類が、中国語で記載されていて、普通のインドネシア人では全く読めないものもあるなど、様々な不備が指摘された。
さらに、建設にあたる中国とインドネシアの合弁企業への融資もなかなか決まらなかったこともあり、着工はなかなか進まなかった。
さらに、もともとの決め手であったインドネシア政府の債務保証を求めないという内容についても、中国側は変更を要求してくるようなことまで起こった。
こんな事情もあり、当初の完工予定の2019年の大統領選挙がとっくに過ぎた現在でも、完成区画は40%程度にすぎないとされる。
完成予定は一応2024年に延期ということになっているが、現段階では完成の目処が立っていないのが実際だ。
中国といえば、インドネシア・スマトラ島北部の森林地帯へのダム建設事業でも、トラブルを抱えている。
この森林地帯は、オランウータンの生息地として知られるが、水力発電用のダムの建設予定地は、このオランウータンがもっとも生息している地域だ。
他にもダム建設に適した場所はいくつもあるのに、どうしてこの地にダムを作らないといけないのかという反発が起こっている。
ダム建設に際しては、環境アセスメントが当然必要になるが、まじめな環境アセスメントが行われているのかという疑惑を持たれることになった。
建設を請け負うのは、中国国有企業のシノハイドロ社で、水力発電事業の会社だ。
建設差し止めを求める訴訟では、建設側が勝利したので、建設はこのまま進むことになりそうだが、このように地元の人たちとのトラブルを引き起こすようなプロジェクトが、中国絡みでは目立つようだ。
こうしたことを受けてか、ジョコ大統領は、中国との距離を取る路線に舵を切り直したと見られる。
第一期政権の主要閣僚で、中国との関係が極めて強いことで知られたリニ・スマルノ国営企業相が、10月に発足した第二期政権では閣外に去った。
高速鉄道計画においても、中国企業が受注したジャカルターバンドン間よりずっと長い、ジャカルタースラバヤ間(全長720キロ)については、日本側が受注することになった。
インドネシアのナトゥナ諸島の沖合には、中国が公然と漁業権を主張し、中国の漁船が中国海警局の警備艇を伴いながら操業することが、問題視されている。
インドネシア政府は、このナトゥナ諸島を、インドネシアの海洋権益を中国の脅威から守る砦として位置づけ、軍備を増強しているのだ。
ジョコ大統領は茂木外相との会談で、魚市場を整備したいと、日本にこのナトゥナ諸島への投資を要請した。
ナトゥナ諸島に日本を絡ませることで、中国に対する牽制を行っているのは、明らかだ。
さらに、今回の新型肺炎に対する対策でも、インドネシアは中国に対して手厳しい対応を取っている。
インドネシアは2月5日から、中国発の定期航空便の全面的な乗り入れを禁止し、中国人観光客や過去14日間に中国を訪問したことのある外国人の入国も制限した。
それだけではない。
中国からの鮮魚の輸入についても、当面の間は全面禁止にしたのだ。
さらに食料の原材料についても、中国からの輸入を一時的に見合わせる方針を明らかにした。
食材の輸入をストップするなどは、中国との感情的なしこりを作ることになり、中国との力関係から考えてやりすぎではないのかとも思えるが、ジョコ大統領はこういう方針で動いているわけだ。
ここまでインドネシア政府が強硬な対中政策を打ち出すようになった背景に、アメリカが絡んでいるのかどうかは私にはわからないが、そうとでも思わないとなかなか理解できないような動きが、いまインドネシアで起こっている。
この新型肺炎の騒動が長引き、サプライチェーンの組み換えが起こり、脱中国の受け皿になることが国益につながると考えているのだろうか。
中国の力はここまでであり、今後はその勢いを失うと、ジョコ大統領は恐らく考えているのであろう。
インドネシアが今回明瞭に示した脱中国的姿勢が、今後ASEAN諸国の中で徐々に共有されていく流れができそうだ。
そこに日本がどう絡んでいくのかは、今後の東アジア、東南アジアの行く末を占う上で、極めて重要になるであろう。
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