道理

横田滋さんの死去の報に触れて(朝香 豊)


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北朝鮮に拉致された横田めぐみさんのお父さんの横田滋さんが亡くなった。

めぐみさんが拉致されてから40年以上が経ち、結局再会を果たせぬままに他界することになった。

私は横田めぐみさんと同じ昭和39年生まれであり、横田滋さんと私の父は1歳しか変わらない。

それゆえ、私の家では起こらなかったことが、横田家ではたまたま起こってしまったことのようにも感じる。

さて、横田滋さんが亡くなったことを、メディアは感傷的に、あたかも滋さんに同情するかのように報道している。

例えばNHKは、滋さんが2年前から入院していたこと、奥様の早紀江さんが毎日病院に通って励ましていたこと、この間は新型コロナウイルスのせいで病院通いを中断せざるをえなかったこと、緊急事態宣言の解除で再び病院通いを始めた矢先だったことなどを挙げて報道していた。

別にそういう報道がすべていけないとは思わない。

だが、そういう報道をするだけの心を、横田滋さんに対して、拉致被害者に対して、本当にメディアが感じてきたのかは疑問だ。

そもそも拉致問題の存在すらなかなか認めなかったのが日本のメディアであった。

拉致問題の存在が否定できなくなってからも、それまでの姿勢を反省して信頼を取り返すために頑張るようなことを、日本のメディアは行っていない。

拉致問題の解決のために精力的なキャンペーンを張ったテレビ局が1局でもあっただろうか。

どういう背景・事情があるのかわからないが、拉致問題の解決についてのメディアの姿勢は常に後ろ向きであった。

道理だけでは動かない国際政治の実際の中で、外交的な「話し合い」以外の解決策をメディアが提起したことはなかった。

それは事実上、拉致問題の解決をさせないという選択肢だったと言えるだろう。

そんな形で手をこまねいているうちに、北朝鮮は核ミサイルを開発したばかりか、それを拡大・進化させ、ますます我が国にとってこの問題の解決が難しい国になってしまった。

メディアだけの問題にするのは適切ではないといえばそのとおりではあるが、それでもメディアの責任が重いことには変わりはない。

そうした自らの責任を棚上げにして、あたかも横田滋さんにずっと心を寄せてきたかのような報道を行うメディアの偽善には辟易する。

政治家も許せないが、人々に情報を伝えるメディア、特にテレビ局に対して許せない思いを強く持たざるをえない。

横田滋さんに哀悼の意を捧げるのに、こうした怒りや非難の感情は似つかわしくないことは重々承知している。

本来は切り離すべきことだろう。

だが、そんなことができるほど、自分は成熟していない。

横田滋さん、ご苦労さまでした。

あなたの仇が打てるような力は私には全くないですが、その無念な思いを引き継いで参ります。

安らかにお眠りください。

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