東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式で、企画・演出の統括役を務めるクリエーティブディレクターの佐々木宏氏が辞任した件は、あまりにもひどい話だと思わざるをえない。
渡辺直美にブタの格好をさせて「オリンピッグ」というダジャレに使おうという提案は、確かに品の良いものではないだろう。だがこの提案は演出チーム内でさまざまな企画を出し合う段階で出た一つのアイデアに過ぎず、その場で他のメンバーからダメ出しをされてボツになったものだ。この方向性でオリンピック・パラリンピックの開会式をやろうと決まったものなどでは全くない。しかも佐々木氏はその場で謝罪し、撤回した上で、指摘してくれたメンバーにお礼まで述べているという。いったい何の問題があるというのだろうか。
素晴らしいアイディアはいきなり出てくることはなかなかない。質より量を重視して、テキトーな思いつきでいいので、集団内で自由闊達にアイデアを出し合うことが出発点になる。一見ではどうしようもないくだらない提案がヒントになって、面白いアイディアを生み出すきっかけになることもある。そうしたこともあるから、倫理的に問題があろうが、いかにくだらないアイディアだろうが、まずは制約をかけないで出してみるということが最も大切になる。
あくまでも私の勝手な憶測だが、佐々木氏はメンバーにどんどん意見を出させる誘い水として、渡辺直美にブタの格好をさせるという、間違いなく激しいツッコミを受ける提案を意識的に行った可能性もある。トップがこのくらいどうしようもない提案を出してくれると、他のメンバーは間違いなく意見を出しやすくなる。自分が汚れ役になることで全体がうまく回るのであれば、そのくらいのことをやってもいいと思ってやったとすれば、佐々木氏はむしろリーダーの鑑(かがみ)である。ところがこのレベルのことすら許されないものだとし、表沙汰になったら責任を取って退任しなければならないというのでは、あまりにも理不尽だ。
この件に関して増田明美氏が実に的確な指摘を産経新聞上で行った。増田氏は「ビジネスの世界の手法で、没にしたアイデアの責任を取らなければいけないなら、創造力を捨てろと言っているようなもの」だと指摘した。まさにその通りである。
増田氏はさらに「告げ口には、正義感で行う場合と、個人的な恨みで他人を陥れようとするものの2種類がある」ことを指摘した上で、「後者は最悪だ」と述べる。これもまさにその通りである。そして今回の事件はまさに佐々木氏を陥れようとするものであり、到底許されるものではない。
ただし増田氏は「的外れな告げ口を大々的に取り上げた日本のメディア」は「世界に恥をさらし」たというが、辱められたのは日本のマスコミではなく、日本の社会であり、日本人ではないだろうか。
こうした問題が起こったときに、問題を早く沈静化させようとして、安易に辞任に走る傾向が日本にはあるが、これは決して褒められたものではない。理不尽な批判に正論で切り返し、安直に逃げないことを日本人は覚えるべきではないのか。貶められているのは佐々木氏個人だけでなく、日本人であり、日本社会でもある以上、個人が泣き寝入りすれば済む話ではないのだ。
一歩も引かずに徹底した正論で反論するようになれば、言論空間には新たな世界が生まれる。そしてこれが日本を貶めたい勢力に対する最大の打撃になるのではないか。この事件を通じて、こんなことを思っている。
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佐々木宏氏の画像
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