衆議院の科学技術特別委員会で日本の半導体戦略についての集中討議が行われた。ここには3人の参考人が招致されていたが、この中でも湯之上隆氏が語ることが特に注目を集めたように思われた。湯之上氏は日本が半導体の頂点に君臨していた1987年に日立製作所に入社し、その後の日本の半導体の凋落をずっと見続けてきた人である。
湯之上氏は1980年代に日本がDRAMが強かったのは、大型コンピューター用のものであったことを指摘した。当時はまだパソコン市場は小さかった。このときは大型コンピューター用に25年間壊れることのないDRAMを作ってもらいたいと求められた中で、このレベルのDRAMを作ることができたのは日本企業しかなかった。それが日本企業が当時勝利した要因であった。
だが時代は大型コンピューターからパソコンへと大きくシフトすることになる。パソコン用にはそんな高耐久性能を持つDRAMは求められない。3年間壊れなければ十分であり、高品質性よりも低コストの方が圧倒的に求められた。韓国がDRAMで日本に勝利を収めたのは、この低耐久性のパソコン用DRAMを安価に大量に作り出す技術を確立したからである。日本は高耐久DRAMの高耐久ぶりに誇りを感じ、パソコン用の低耐久性のDRAMを量産する方向に転じることができなかった。むしろ過去の成功体験に縛られて、より極限的でさらに高品質な技術を追究することばかりに目が向き、ほどほどの品質のものを安価に大量に作る形へと、技術開発の方向性を向けることができなかったのである。この結果、マーケットが求める方向性に背を向けることになり、シェアをどんどん落としていくことになった。
この点に関しては、もう少し背景的に触れるべきことがある。韓国のサムスン電子は230人のマーケティング体制を組み、このマーケティング部隊が世界中の取引先からどのようなスペックのものをどのくらいの金額で開発すればいいか、現在提供する商品のどういう部分を改善すればいいのかというのを、毎日密に接触しながらフィードバックして製品開発に役立てていった。これに対して日本企業は、高品質のものを作れば売れるはずだと思い込み、顧客の要望を探ることを重視せず、技術者が正しいと信じるものを作り続けていったのである。
さらに日本企業の中には韓国の技術力をバカにしていたところもあった。1995年頃にNECはサムスンに、日立は金星(現在のSKハイニクス)にOEM生産を委託し、製造プロセスを全部開示して韓国企業に全て教え込んでいた。教えた部分については韓国企業は作れるようになるだろうが、次の世代のものになればプロセスが大きく変わる。そうなれば韓国企業には作れなくなると甘く見て、別に教えても大丈夫だと認識していた。次世代に応用できるような能力は韓国企業にはないと高をくくっていたのである。この認識が完全に甘く、韓国企業はこれによって一気に日本に技術的にキャッチアップすることができた。日本から韓国への技術流出というと、1件100万円で技術を買うからと日本の技術者を週末旅行に誘ったり、ヘッドハンティングを行ったりしたことが頭に浮かびやすいが、それ以前にこうした形で全面的な技術流出を全社を挙げて行っていたということを忘れてはならないというのが湯之上氏の考えだ。
業界標準に背を向けた形でそれぞれのメーカーが独自技術にこだわっていったために、日本企業に発注しにくくなったという問題もあった。
半導体産業が凋落を続ける中で、日本では様々な国家プロジェクト、コンソーシアム、合弁事業が立ち上げられていったが、全て失敗に終わった。それは自分たちの過ちを真摯に見直す適切な処方箋ができなかったからである。
この上で湯之上氏は、日本はもはや半導体デバイスにおいては挽回不能であるとの判断を下している。日本企業は技術者のリストラをどんどん進めてきた。例えばルネサスの場合には、2011年に4.92万人いた社員が2019年には1.89万人へと、3万人以上減少した。半導体デバイスで復権するには既にマンパワーが足りなさすぎるというわけだ。
ただ、半導体製造装置として必要となる装置は十数種類ある中で、日本は5〜7種類で市場を独占しているだけでなく、欧米が手掛ける半導体製造装置でも部品については6〜8割は日本製であり、半導体材料でも日本に強みがあることを活かすべきだ主張している。要するにこの強みを他に取られないようにすることに全力を注ぐべきだというのである。中小の部品メーカーや材料メーカーに対する技術革新支援を国が積極的に行うべきだというのが、湯之上氏の考えである。
だが、この点では現実の日本は遅れを取っている。例えば、政府系の産業技術総合研究所(産総研)には立派なクリーンルームがあるが、様々な規則でがんじがらめになっていて、全く利用できない状態になっている。現場の声を聞かずに役所側の事情でルールを決められると、事実上利用できないものになってしまう。使いたい装置や施設を整えることに加えて、現場の声に基づいてそれを利用しやすいようにハードルを思い切って引き下げるようにするのが、日本の最大の課題であると、湯之上氏は主張している。
湯之上氏が語っていることには、日本の製造業が抱えやすい問題点が様々に浮き彫りになっているように感じた。こうした弱点を日本の製造業が抱えやすいことをもともと理解した上で、謙虚に反省することも日本の製造業に大切なことではないだろうか。
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