東芝問題についての朝香自身の見解を表明しないのはどういうことだという批判を頂いたので、触れることにする。
今回問題にされているのは、三井住友銀行やイギリス系の投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズにかつて在籍した車谷社長が、自分の古巣のこの投資ファンドに東芝を買収させようとしたことにある。車谷社長は「外資の手先」であり、「トロイの木馬」だったとの評価がなされ、車谷社長が結局辞任に追い込まれたのは、外資による買収を防いだことだとして、高く評価されている。
私はイギリスであれ、アメリカであれ、外資によって東芝が買収されることをいいことだとは全く思っていない。だが、そもそも現在の東芝は果たして日本企業だと認めていいのだろうかというのが、根本的な疑問である。
よく知られている通り、経営破綻に追い込まれた東芝は2017年に6000億円の第三者割当増資を行っている。この第三者割当増資に応じたのが「アクティビスト(物言う株主)」である海外ヘッジファンドであり、これにより東芝の外国人保有比率は急激に高まった。東芝の株主構成における外国人投資家の割合は実に71.62%に達している。つまり、「外資に売り渡すな!」との話になっていたはずが、実は東芝は既に外資に支配されていたというわけである。
福島第一原発事故の後に東京電力は未曾有の経営危機に陥ったが、メインバンクの三井住友銀行から派遣された車谷氏は東電実質国有化のスキームを組み立てて、東電を救済した実績がある。車谷氏が東芝の社長になったのは、経済産業省の後押しがあったからであり、そこには外資の草刈場となっている東芝を救い出すのに車谷氏の腕力に頼りたいという経産省の考えがあったのは間違いないだろう。
東芝はキャッシュが足りない状況に陥りながら、アクティビストのために東芝メモリの貴重な売却代金を株主還元させられるという悲惨な状況に追い込まれている。こうしたアクティビストの影響力を排除する最善策は、資産の切り売りなどを簡単には行わずに長期的な視点から資金を投入してくれるファンドが東芝を購入して、非上場化を果たすことだと車谷氏は考えたのだろうと思う。
買収するのが日本のファンドであれば一番良いわけだが、尻込みをして手を上げるところが見つからない中で、車谷氏が古巣のCVCキャピタル・パートナーズに相談し、買収提案をまとめてもらったのではないかというのが、自分の見立てである。もしそうだとしたら、現状よりも今回の買収提案に乗ったほうが、東芝には遥かに良かったのではないかとさえ思う。
自分の見立てが正しいかについては、確信と言えるほどのものがあるわけではない。ただ、車谷氏を一方的な悪として叩くのが正義であるのに決まっているとの見方には、私は違和感を感じる。
さらに言えば、東芝の経営問題の遠因は、福島原発事故が発生してからも民間に原発事業を任せてきた日本政府の責任が大きい。原発事業の収益性とリスクは事故後に完全に変わったのであり、もはや民間企業に完全に委ねられなくなったのは明らかだ。
そもそも東芝がアメリカの原発企業のウェスティングハウスを買収したのは、日本政府の強い要請に応えたことによるものだった。それなのに、経営環境の激変があったにも関わらず、日本政府はこうした原子力事業を救うために思い切った手を打つことをためらった。「原発擁護」のような国内世論が沸き起こることが怖かったのだろうが、それによって東芝が潰されたとも言えるのである。
この点で私が一番に問題にしたいのは、日本の産業を絶対に守り抜くという日本政府の強いリーダーシップの不在である。東芝や車谷氏よりも日本政府のほうが遥かに問題なのではないか。アクティビストをすべて「ハゲタカ」扱いにして全否定するのは間違いだとは思っているが、日本企業が彼らの草刈場にされるがままにするのは、明らかに問題ではないかというのが自分の考えだ。
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