経済

種苗法改正は必要! 日本の種苗の知的財産を守れ!(朝香 豊)


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現在国会に上程されている種苗法改正案について、政府がとんでもない悪法を出してきたと思っている人がたくさんいるようだ。

こうした人は、政府はモンサントなどの多国籍企業に飼いならされていて、彼らの意のままに動こうとする存在だということらしい。

そして国民の目がコロナ騒ぎに向いている今がどさくさ紛れのチャンスだと見て、種苗法改正を打ち出したのだということになるのだろう。

だが実際には、話は全く違う。

まず取り上げたいのは、自家採種の原則禁止が農家に凄まじい打撃を与えるという誤解だ。

大半の農家は今、育てた作物から自家採種で種を取り、次の年に植えるなんてことはやっていない。

F1種の種を買ってきて、栽培しているのが普通のあり方だ。

F1種とは、「雑種第一代」のことで、異なる優良な形質を持った親の交配から作る、最初の種のことである。

F1種の場合、それぞれの親の遺伝子を受け継ぎながら、一般的にはメリットとなることが多い優性形質ばかりが出現することになる。

この結果、F1種は一般に植物体が大きくなり、ストレスにも強くなる傾向がある。こういうのを「雑種強勢」という。

さらにF1種は遺伝子構成が均質だから、作物も均質になる傾向にある。

スーパーに並んでいるきゅうりは、大きさも色合いも割と揃っている上、みんなまっすぐであるのが普通だ。

こうしたきゅうりは典型的なF1種で、箱詰めするにしても、店頭に並べるにしても便利だし、客の立場からしても、どれを選んでも優劣の差が少ないというのは、安心感がある。

流通のしやすさや消費者の好みに合わせると、こうした傾向が生まれるのは仕方がないことだ。

そしてF1種同士を交配して生まれるF2種は、メンデルの法則に従い、性質がばらばらになってしまう。

そうすると、現代の通常の商業活動には不向きになる。

だから大半の農家は、毎年F1種の種を種苗メーカー(会社とは限らない)から購入して栽培しているのである。

こうした実情を踏まえると、今回の法改正で自家採種が禁止されたところで、農家に加わる猛烈な打撃があるのだろうか。

挿し木などの抜け穴も塞がれるので、その点では打撃かもしれないが、決定的なものではないだろう。

もちろん、聖護院大根とか下仁田ネギなどの在来種を、自家採種で育てている農家だってある。

こうした在来種には独特の地味があり、F1種にはない魅力があるのだという主張はもっともだ。

在来種を同じ環境で何代にも渡って育てていけば、やがてその土地により適した品種に自然と鍛えられていくという特徴もある。

こういうところはそれはそれで尊重すべきだろう。

今回の種苗法改正に対する反対論では、自家採種が原則禁止になることが声高に主張されているが、こうした在来種(より正確に言えば「一般品種」)の種を自家採種することを、改正法は全く禁じていない。

丹波黒大豆もメークイーンも、今まで通り育てることができるのだ。

あくまでも従来のものにはない特性を備えた「登録品種」については自家採種を禁止し、きちんと種苗メーカーにお金を支払いましょうと言っているのにすぎない。

では、なぜ種苗法を改正しないといけないのか。

それは農産物をめぐる知的所有権をきちんと確保しなければいけない国際競争が展開されているからだ。

2018年に韓国で開催された冬季オリンピックで、カーリング女子の日本チームの「もぐもぐタイム」で、韓国のいちごを「おいしいね〜」と言って食べる姿が放映された。

あの韓国いちごは韓国原産のものではなく、日本で開発された「とちおとめ」「レッドパール」が韓国に無断で流出したものだ。

実はこうしたものは実に多くある。

こうした流出を防がなくてはならないのだ。

そして、種苗の権利を定めたUPOV条約は、加盟国間での内国民待遇を要求している。

つまり、日本の農家に許しているのと同じ権利を、海外の農家にも認めないといけないことになっているわけだ。

日本国内で自家採種を認めないようにすれば、海外でも同様の扱いにすることができる。

もちろんこの扱いとは別個に海外での権利出願も必要になるが、海外での権利出願さえすれば、国内での規定がいらないというわけではない。

日本の優れた品種の知的財産権を守っていくには、種苗法の改正は必要なものだ。

タキイ種苗などの日本の種苗会社や農林試験場などの知的財産権を、海外から守るためのものだ。

もちろんモンサント(現在はバイエル)の権利も保護されることになるが、それは相互主義の観点から当然だろう。

権利保護の仕組みがしっかり整えられれば、種苗会社は新品種の開発に安心して力を入れることができる。

反対派は、農家が種苗メーカーに支払う料金が高額だと批判するが、農家は特定の品種しか栽培できないわけではない。

種苗代を支払いたくなければ、在来種を育てることだってできる。

その選択権は当然ながら農家にある。

収穫量が格段に増えるとか、病虫害に強いとか、強風に耐える力があるとか、今までにない美味しさがあるといった特性のある種は、農家からすれば魅力がある。

種の値段が高額でも、手に入れて使ったほうがいいと判断するから、その種を使うにすぎない。

種苗法の全体像をこのスペースで語り尽くすことはできないが、日本の種苗の知的所有権を大切にしたいのなら、これに反対する理由はないだろう。

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画像はウィキメディアから
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