安全保障

中国がコロナのアメリカ流出説で反転攻勢! 実は追い詰められている中国!(朝香 豊)


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中国が新型コロナウイルスの起源に関して、アメリカの研究所から流出したものだという反転攻勢に打って出た。

ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授はコロナウイルスに関する論文だけでも268も発表している、この分野の権威である。解析された遺伝子配列がわかれば、そこからウイルスを人工的に作り出せる技術を確立した人物である。

中国科学技術日報はベリック教授が2008年に「類似SARSウイルス人工合成」という論文を出していたことを報道した。バリック教授は「我々は多様なSARS類似ウイルスを設計して合成できる能力を保有している」とし「自然に生成されたウイルスではなく、商業的に合成した遺伝子断片を使ってウイルスを作ることができる」と述べている。レゴブロックを組み合わせて作りたいものを作るイメージだという。

中国科学技術日報は「新型コロナウイルスはSARSウイルスと似たコロナウイルスの一種」であるとし、「バリック教授のチームは世界で初めて遺伝子再調合技術を取得し、これに関する多数の特許も保有している」ことを指摘した。さらに「この技術を使って突然変異を起こした多数のコロナウイルスを培養した」とし、「彼の研究員の一部がフォートデトリック研究所に入った」と主張した。フォートデトリックはワシントン郊外で米軍基地があることで知られる。フォートデトリック研究所は国防の見地から生物兵器関連の研究も行われている。

中国共産党の機関紙である「グローバル・タイムズ」は「バリック教授チームと研究室に対する調査で、新型コロナウイルスがどこで生成されたかを明確にできるだろう」と強調し、ノースカロライナ大学の研究所とフォートデトリック研究所に対する調査を求めた。これらの研究室はベリック教授の遺伝子再調合技術を共有しているため、このウイルスを作り出した可能性があるというわけだ。

「グローバル・タイムズ」はまた、フォートデトリック研究所は世界の約200カ所の研究室と関係しているから、ドイツなど欧州地域の研究室も調査対象に含めるべきだと主張した。

中国外交部の趙立堅報道官も新型コロナウイルスのアメリカ起源説につながる疑惑を提起した。この中で趙立堅報道官は、2019年7月に米バージニア州で原因不明の呼吸器疾患が発生し、この同じ時期にフォートデトリック研究所が突然閉鎖されたと述べている。同年9月にもメリーランド州でコロナと似た電子たばこによる疾患が報告されたが、アメリカでは新型コロナが先に発生した可能性についていかなる調査もしていないと述べた。

さて、中国はこれまで武漢ウイルス研究所の流出疑惑を否定するだけの姿勢にとどまっていたのに、なぜ突然方向を変えて具体名を出してアメリカを攻撃する姿勢を鮮明にしたのだろうか。

これを理解するヒントは、アメリカの情報当局が武漢ウイルス研究所のウイルスサンプルの遺伝子データを入手して分析を行っていると報道されたことだ。この遺伝子データは中国政府は公開していないから、通常ルートではアメリカが入手できることはありえない。アメリカの諜報機関がハッキングを行ったのではないかということも指摘されている。ともあれ、これまで秘密にしてきた情報をアメリカが入手し、分析をしているとすれば、新型コロナウイルスの起源についてかなり確度の高いことがわかっていくであろう。これは中国側からすれば脅威である。

8月24日には、バイデン大統領が情報機関に命じた新型コロナウイルスの起源の報告の期日が到来する。このまま手をこまいていれば、アメリカの情報がストレートに流れることになる。中国側がこの段階で情報を撹乱する必要を感じているのは、ある意味では当然である。

だが、中国のこの反撃は果たして有効に機能するのだろうか。私はそうは思わない。むしろ墓穴を掘る結果になるように思う。

そもそもウイルスの起源が武漢ウイルス研究所ではないかということについては、トランプ政権期にすでに強く疑われていた。自分たちにやましいところがなく、明らかにアメリカ起源の疑惑が大きいのであれば、中国側はこの段階で積極的に広報・宣伝に打って出たであろう。だが、中国側はそういう対応に出なかった。そのうえ、問題解決に役立つ基礎資料の提出さえ拒み、中国国内の各地で保存されていたウイルスのサンプルの廃棄まで命じていた。中国側の一連の怪しい動きは中国起源であることを暗示するものであり、この疑惑を払拭するような説明はこれまで一切なされていない。

そもそも、武漢ウイルス研究所の石正麗研究員とバリック教授は非常に近い間柄である。石正麗研究員から伝えられたコウモリのウイルスの遺伝子配列をもとにして、バリック教授はウイルスを合成することも行っている。つまり、中国政府がよくよく詳しく調査したら、バリック教授がウイルスの人口合成の技術を作り出していたことがわかったというわけではない。攻撃するなら去年の段階で攻撃ができたはずである。中国側が反撃に出たのは追い詰められたからだと考えるのが極めて自然である。

また、反撃をするにせよ、対象は絞り込んでおくべきだったのではないか。アメリカだけでなくヨーロッパも怪しいなどと広げたことで、中国は無駄に敵を増やすことになった。

フォートデトリック研究所を名指しで攻撃対象にし、不必要な情報公開を求める動きに出たことは、アメリカ政府、特に米軍に対して感情的な反発を強化することになったはずだ。しかも、中国が黒を白、白を黒と言いくるめるような形で攻撃をエスカレートしてくる姿は、中国が既存のアメリカを頂点にした秩序の枠組みを尊重するつもりがなく、中国独自の枠組みにより世界を統合したいという意志を明白に示したものでもある。これを認めることはアメリカには絶対にできない。

さらに、バリック教授を攻撃対象としたことも中国側にはマイナスに働くことになるだろう。バリック教授やファウチ博士らは、自己保身もあってウイルスの自然起源説を支持してきた。だが、中国側が自分たちを攻撃対象にしてきたのであれば、中国を利するような立場=自然起源説に固執する意味合いは薄れることになる。

そもそもウイルスの人口合成技術は13年前にはバリック教授らしか持っていない技術であったとしても、その後にはかなり一般化した技術になっている。中国もこの技術はすでに持っていたのはよく知られている。石正麗研究員はSARSウイルスとコウモリのコロナウイルスを組み合わせた新しいウイルスを作成したことを2015年に論文で発表してもいる。技術の開発者がアメリカ人であったとしても、その技術を利用したのがアメリカ人に限られるという話にはならない。

一見強気には見える中国の反転攻勢だが、中国がかなり追い詰められていることの反映なのではないだろうか。米政府の報告書が発表された段階で、アメリカの世論はさらに中国に強硬になるだろう。

もはやアメリカと中国の二股を続けることはできなくなっていく。そのことに親中的な姿勢をとってきたアメリカ企業も気づかざるをえなくなるきっかけになっていくように思う。

 
 
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戦狼外交の中国外交部報道官の画像
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