安全保障

TSMCの日本投資は大きなチャンス! 反対論者は日台離反工作に乗せられていないか、冷静に考えてみよう!(朝香 豊)


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フェイスブックに台湾情報筋の話として、TSMCが日本に半導体工場を建設し、上限1.6兆円の投資を行うとの話を書き込んで、歓迎の意を表したら、多くの批判を受けた。

冷静に考えていただきたいのだが、日本企業が台湾に工場を作るのではなく、台湾企業が巨額投資を行って日本に工場を建てるというのに、日本の技術がTSMCに流出することを懸念するというのは、どういうことだろうか。ソニー、トヨタ、三菱電機という日本企業との合弁であるから、日本の技術が盗まれると言いたいのだろうが、日本がTSMCの技術を学べることのメリットを忘れていないだろうか。そのどちらの方が大きいのかと考えた場合に、日本が学べる技術のほうが遥かに大きいのではないだろうか。

そもそも日本の半導体装置メーカーにしても、半導体素材メーカーにしても、お得意様であるTSMCと日々綿密な打ち合わせを行い、その要望に沿う形で技術改良したり、あらたな素材や技術の開発を続けている。そうした中では「ここまでならできる」とか「その点は検討課題として持ち帰る」と言ったことが日常的に語られているのは当たり前の話だが、それも技術流出だというのだろうか。だとしたら、日本企業はTSMCを顧客としてビジネスができなくなるのではないか。

トヨタにしても車載半導体としてどういうものを求めているのかについて細かな仕様を公開して、それに合うものをTSMCに作らせているはずだが、それはトヨタの技術や社内秘密をTSMCに漏らしている売国的な行動だということになるのだろうか。このあたりについて、冷静に考えてもらいたい。

日本側との合弁でつくばに作られるとされるTSMCの研究拠点は2Dで微細化で進んできた半導体を3Dに積層するという、これまでにない技術開発を行う予定である。どうすれば3Dがうまくできるのかということの最先端の研究が日本で行われれば、それに合った素材開発や製造装置開発で日本が得られるメリットが大きいのは間違いないと思うのだが、どうだろうか。オランダのASMLに奪われた露光分野においても、日本企業が巻き返しができるチャンスになるかもしれない。

なおTSMCはマサチューセッツ工科大学(MIT)や台湾大学との共同研究で、2Dにおいても1nm以下の線幅が可能となる材料開発に成功している。これに合わせた半導体材料や製造装置の開発に際しても、TSMCと日本企業の関係が深くなることには大きな意味がある。

TSMCがハイシリコンなどの中国企業と取引しているのがけしからんという意見もあるだろう。だが、日本企業だって中国企業といくらでも取引しているのではないか。トランプ政権が中国との取引に制約を課すまでは、中国との取引はTSMCにとって最も大きく伸びていく収益源であったのであり、この流れを一気に変えることはできることではない。

よくも悪くもTSMCはグローバルな取引を行っている企業なのであり、そこにはグローバル企業ならではの戦略があるのは当たり前である。TSMCの南京工場の拡充は日本人である自分には愉快なことではないが、彼らの論理からすれば当然だろう。アメリカに工場を作るだけでなく、中国の工場も拡張しますよとアピールしてバランスを取りたくなる気持ちは理解せねばならない。中国寄りに見えるところもあることをけしからんと非難することが果たして正当なことなのだろうか。

TSMCや台湾政府が中国寄りで信用ならないと言うのであれば、日本政府や日本の財界はどうなのか。私には台湾政府のていたらくよりも日本政府のていたらくの方がむしろ問題が大きいと思うのだが、どうだろうか。

以前にも「進む日台離反工作! 工作に乗せられていないか、冷静に考え直そう!」というブログ記事の中で記したが、日本政府も台湾政府も現実の政治を操る立場にあり、多くの利害関係者のことを考慮せねばならず、対中政策面でも常に最善策が打てるわけではないという事実から目をそらすべきではないだろう。だからどちらの政府の政策についても中国に対して妥協的に見える要素は常にある。

この点をうまく衝く形で日台離反工作を行おうというのは、中国側が考える当然の策略だ。台湾を信用できないという日本人と、日本を信用できないという台湾人を増やすことは、彼らの目的に完全に沿うことになる。その策略に乗せられていないかを、冷静に考えてもらいたいのだ。

不甲斐ないところが数多くあるにせよ、わたしたちは日本政府と台湾政府を支えていくことでしか、正しい道を歩むことはできない。アメリカのバイデン政権だって信用ならない政府だが、それでもアメリカ議会などの牽制によって親中方向にタガがはめられている。こうしたタガに信頼を寄せる中でアメリカを味方につけることを当然考えるべきではないのか。

TSMCが日本に巨額投資を行えば、日本の中ですでにかなり失われた半導体技術者が日本国内で再び育っていくことになる。それが日本の大きな財産になる。これを素直に喜んではいけないのだろうか。

はっきり言うが、日本が一番求めるロジック半導体が今回の投資の中心にはないというのは認めないといけない。TSMCの側だって日本への技術流出を恐れるのは当然であり、日本にとってベストとは当然ながら言えない。それでも日本で半導体技術者が大きく増えることに大きな意味があるのは間違いない。

さらに言えば、TSMCが日本に最先端の半導体製造工場を作ることもないだろう。最先端からすれば2世代くらい古い半導体の工場になると思われる。それでもそのレベルの半導体すら今や日本はきちんと製造できる能力を十分には持っていない。そのレベルの技術者であっても日本国内に育つことは意味がある。

日本人の半導体技術者が増えることだけでなく、そうした技術者がTSMCの設計思想を学ぶことにも意味がある。低価格で量産化するという製造技術を日本は磨いてこなかった。TSMCが当たり前だと考える合理的な判断を日本人は謙虚に学ぶ必要がある。TSMCが運営する工場で多くの日本人が働いていくことが、その学びの最善の道である。それは日本の半導体の復活にとって非常に大きな財産になるだろう。
  
 
 
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