球磨川水系で非常に厳しい水害が発生し、浸水の深さは最大9メートルに達した。
浸水被害は6100戸にも及び、44人が死亡、1人が心肺停止、10人が行方不明という大惨事になった。
球磨川には昭和30年代に市房ダムや幸野ダムが建設され、治水対策は大きく前進したかに見えたが、それでも昭和40年に甚大な被害を生む洪水が発生した。
これ以降に、この球磨川の支流の川辺川には水害防止のための大型ダムを建設しようという動きが起こったが、中心部が水没する五木村の補償問題の解決に時間がかかり、また補償問題が解決した頃には今度は反ダム運動が高まってきたことにより、川辺川ダム建設はずっと手つかずとなっていた。
長年にわたって必要性が言われながら、建設に至らなかったダムの代名詞として、「東の八ッ場、西の川辺川」ということが、専門家の間では語られてきたそうだ。
さて、川辺川ダム建設反対運動で非常に大きな役割を果たしたのは、毎日新聞の福岡賢正記者だ。
福岡記者は1991年から95年にかけて「再考川辺川ダム」との記事を同新聞上に連載し、こうした記事は後に「国が川を壊す理由」という題名の本としてまとめられた。
福岡記者は、市房ダムや幸野ダムが建設されてからの方が被害が大きいとし、ダムがむしろ水害を招いていると判断し、ダムをすべて撤去すべきだと主張した。
政府が提示している水流量はダム建設を正当化するために作られた水流量であり、現実とは違うとも主張した。
この福岡記者の論が、川辺川ダム建設は「壮大な税金の無駄遣い」との世論が形作られる理論的な支柱となった。
2008年に当選した蒲島郁夫熊本県知事は、こうした世論に押される形で川辺川ダム建設反対の姿勢を示し、翌2009年に「八ッ場ダムと川辺川ダムの建設中止」をマニフェストに明記した民主党が政権につくことで、この流れは決まった。
さて、川辺川ダム建設に反対してきた人たちは、今回の事態をどう総括するのか。
毎日新聞は、「専門家は「もともと氾濫しやすい構造の川。今回はそのリスクが大きな規模で表面化してしまった」と分析している」と、自らの責任は棚に上げた記事は掲載しているが、自分の会社が行ってきた川辺川ダム建設反対のキャンペーンを振り返る記事は皆無である。
福岡賢正記者が今もなお熊本支局に在籍しているにも関わらずだ。
なお、同記者はTwitterを活用しているが、今回の水害については完全に沈黙している。
毎日新聞に同調してきた朝日新聞も、自らの姿勢を振り返るような記事がないどころか、「過去に何度も水害が起きていた1級河川・球磨(くま)川」と紹介しつつ、「これまでの治水対策は十分だったのか」との問いかけを平然と行ってみせた。
ダム建設反対の急先鋒として活動してきた日本共産党も、今回の水害とダムとの関係については沈黙している。
民主党政権時に川辺川ダム建設中止を決定した前原誠司国土交通相(当時)は、「九州地方を中心とする豪雨災害の犠牲になられた皆様にお悔やみ申し上げますとともに、被害に遭われた皆様に心からお見舞い申し上げます。今なお降り続く状況に、地域の皆様はくれぐれもご注意ください。」とのコメントをTwitter上に上げたが、川辺川ダム建設中止問題には触れなかった。
彼らの責任を曖昧にすることは許されないだろう。
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