全国人民代表大会(全人代)は、香港の選挙制度の「改善」案を、賛成2895、反対0、棄権1で可決した。全人代では反対票を投じる人間もごく少数準備されるのが普通なのだが、この件については反対票を投じる人間を一人も用意しなかったことになる。ここに香港の民主主義を根底から潰して、香港を完全に中国共産党の統治下にしようとする、中国共産党の強い意志を感じることができる。
香港行政長官の選出を担っている選挙委員会には、議員の3分の1を任命する権限が付与される。別の3分の1は業界団体や産業団体によって選ばれる「職能枠」で、この結果、民選議員の割合は3分の1へと減らされることになる。これにより、民選議員が多数派になることはありえないことになる。
さらに民選議員に立候補する時でも、選挙委員会からの指名が必要になる。そしてこの選挙委員会は中国共産党の意向に従うしかなく、その際に「愛国心」を持つ「愛国者」であることが求められる。
ではその「愛国心」とか「愛国者」とはどういう意味なのだろうか。中国外務省香港特派員公署の宋如安副特派員は、「我々が愛国心と言うとき、それは中国の文化や歴史を愛するという抽象的な意味ではなく、中国共産党の指導下にある現在の中華人民共和国を愛するという意味」であり、「愛国者は中国共産党を尊敬するべきだ」と述べた。つまり、中国共産党の言うことに異議を唱える者は「愛国者」の定義には入らないということであり、区議会議員選挙での民主派の圧倒的な勝利に示されたような大多数の香港人の民意は、今後受け入れる余地はないということになる。これはすなわち、大多数の香港人は「愛国者」には該当しないということでもある。
これを受けてG7外相は連名で、中国当局による香港選挙制度の変更決定に「重大な懸念」を表明し、中国に対し「英中共同声明とその他の法的義務に従った行動と、香港基本法で規定された香港の基本的権利と自由の尊重」を求めた。さらに、中国と香港の当局者に対し香港政治制度への「信頼回復」に取り組むよう呼び掛けたが、この対応はまだぬるいとは言えないだろうか。
香港に対する国際公約を守らなかったことに関して、またウイグルなどで起こっているジェノサイドに関して、中国政府に対するG7連名での制裁に踏み切るべきではないだろうか。西側の価値観を否定しても、もはや西側諸国は中国に逆らうような真似はできないと中国共産党は判断し、平然と国際公約を破り、横暴な態度に出ているのである。
そして現実の中国は見かけほど強大なものではなく、実際には経済崩壊の危機に直面している。ここで西側が強い態度で中国に臨めば、その打撃によって中国経済はますます行き詰まる構図になっている。そのことについては「それでも習近平が中国経済を崩壊させる」をぜひ読んで理解してもらいたい。
それはともかく、中国に対して弱腰のイメージの強い日本の菅政権には、ここでG7をリードするような動きをぜひとも見せてもらいたいものだ。9割近い日本人が中国を信頼していない中、きちんと筋を通した対中政策を打ち出せば、政権浮揚に大きく繋がることにもなる。私たちの大切な価値観を守り、西側の安全保障に大きく寄与し、日本企業の撤退を促すことで日本企業へのダメージを最小限に止めることができ、政権浮揚にもつながるこの政策を採用しない手はないだろう。
これを機に、菅政権には対中政策について抜本的な政策転換を願うものだ。
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