安全保障

「研究所起源説」をめぐるアメリカ政府内部での攻防! ついに「起源説」が市民権を得た過程!(朝香 豊)


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「バニティ・フェア」という雑誌に掲載されたコロナウイルスに関する長文の記事が注目されている。この雑誌は40人以上へのインタビューをしたり、様々な政府文書の調査を行うなどして、「研究所起源説」が単なる陰謀論だとされてきた背景を探ってきた。

この中で決定的に重要な役割を果たしたのが、世界で最も権威ある医学雑誌である「ランセット」である。「ランセット」は新型コロナウイルスが世界に広がり始めた2020年2月19日に、このウイルスの起源は武漢ウイルス研究所ではないかという仮説を完全に否定する声明を発表した。この声明は「中国のすべての科学者と医療専門家との連帯」を表明し、27人の科学者が署名し、「COVID-19が自然に発生したものではないかのように主張する陰謀論を強く非難するために団結する」と主張した。

最高権威の医学雑誌が「研究所起源説」を陰謀論にすぎないとみなしたことで、「研究所起源説」を唱えるのはトンデモ論者だということになった。要するに、中国叩きをするのに「研究所起源説」は有利だから、真実ではなくてもトンデモ論者が飛びつこうとしているだけだとみなされたというのである。

こうした医学界の世界的権威による認定に加えて、アメリカ政府自身の事情も関係していた。この事情を理解するには、アメリカ国務省の中で武漢ウイルス研究所についての調査をずっと続けていたグループの話がわかりやすい。

このグループはこの研究所がコロナウイルスのサンプルで機能獲得実験を行っている中で、3人の研究者が2019年秋に病気になったことを示す機密情報を入手していた。そこで2020年の12月にWHOが組織して武漢に送られる調査団のことで国務省内部で会議が開かれた際に、この情報を国民に知らせることについても議論があったが、国務省の生物学に関わる政策スタッフのトップであるクリストファー・パーク氏に止められたことがわかった。パーク氏は機能獲得実験にアメリカ政府自身も関わっており、その指摘に繋がりかねないことに触れるのは好ましくないという見解だった。アメリカ政府の関与というのは、NPO法人「エコヘルス・アライアンス」を通じて武漢ウイルス研究所にアメリカ政府の資金が流れていたことを指す。

エコヘルス・アライアンスと武漢ウイルス研究所

同グループがこうした制止を受けたのはパーク氏からだけではない。「パンドラの箱」を開けるようなことはするなと、様々なところから何度も警告を受けていた。マスコミやSNSを巻き込んで、アメリカ国内では「研究所起源説」について触れるのはタブー化していた。そこには「研究所起源説」を唱えるトランプ政権を荒唐無稽であるとしたい政治勢力の思惑も絡んでいただろう。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の所長を務めたロバート・レッドフィールド氏は、「(新型コロナウイルスが)何らかの(自然的な)方法でコウモリから人に感染したとは、私は信じていない。通常病原体が動物から人へと感染する場合には、人から人へと感染できるようになるまでにしばらく時間がかかるものである」とCNNの番組で発言して、「研究所起源説」を示唆したことで、同僚の科学者たちから殺害の脅迫を受けていたことを明らかにした。レッドフィールド氏は、こうした迫害は政治家から受けることはあっても、科学界から受けることがあるとは思ってもみなかったと述べている。

さて、エネルギー省の国家安全保障研究を行うローレンス・リバモア国立研究所の研究者が、2020年5月に「研究所起源説」に説得力があるとのレポートをまとめていた。ある諜報アナリストが機密情報をふるいにかける中で、このレポートが埋もれたまま注目されていないことに気が付いた。これをきっかけにして「研究所起源説」を支持するような文書類が意図的に隠されているのではないかとの疑いが持ち上がった。事実、国務省の職員がこのレポートをまとめたローレンス・リバモア国立研究所の研究者に接触を試みようとした際に、同研究所の監督を行なっているエネルギー省の担当者から妨害工作を受けたのである。安全保障担当のクリストファー・フォード国務次官補に話を持ち上げた時には、同次官補まで敵対的であったという。このような形で「研究所起源説」はアメリカ国内で不当な圧迫を受けていた。

それでも様々な情報を集めていくと、中国の動きの怪しさがますますクローズアップされていくのである。中でもひときわ怪しさを放っているのは、遺伝子組み換え技術を使って「人間のような肺」を持つマウスを作成し、新型コロナウイルスにどの程度かかりやすいかという研究が行われていたことがわかったことである。この研究レポートは2020年の4月に発表されたものだから、実験自体はすでに感染が広がっていた2020年の3月頃になされていたと考えてもおかしくはない。だが、レポートに記されたタイムラインから逆算していくと、2019年の夏には「人間のような肺」を持つマウスの作成が行われていないとおかしい。「人間のような肺」を持つマウスをわざわざ作成しなければならないとすれば、それは研究施設で作成したウイルスが人体にどのような作用をするかを探りたいということではないのか。これを見つけ出した国家安全保障局(NSC)内のグループは、重大な証拠を発見したとして、他の機関に連絡をとり始めた。ところがその途端に、彼らは解雇されてしまったのである。なお、この研究レポートには23名の共同著者が名を連ねているが、そのうち11人は中国人民解放軍の軍事医学研究院の科学者である。

さらに、武漢に派遣されたWHOの調査団の報告書は矛盾に溢れたものだった。報告書のある部分の議論は別の部分の結論と矛盾していたり、すでに撤回された参考文献に根拠を置いていたりした。

「コウモリ女」とも呼ばれる武漢ウイルス研究所の石正麗研究員の説明にも矛盾が多い。彼女は3人の研究員が発病したことも、自分の研究室が人民解放軍との共同プロジェクトを進めてきたことも否定している。

「研究所起源説」を支持する事実がどんどん積み上がりながら、様々な妨害を受けてこれが広がらないようにされていることに危機感を持った国務省の調査官たちは事実を世間に公表する動きを開始した。バイデン政権が誕生するわずか5日前の1月15日になってようやく、武漢ウイルス研究所での動きについてのファクトシートを公開することにこぎつけた。

この後も「研究所起源説」をめぐる戦いは水面下で様々に行われていたのだろうと推察されるが、この点に関しての詳しい記述は「バニティ・フェア」には書かれていない。ただ、5月2日にニューヨーク・タイムズの元サイエンスライターであるニコラス・ウェイド氏が「ミディアム」誌上にこの件に関する論文を発表したあたりから流れが変わったようだ。

ウェイド氏はこのウイルスの遺伝子コードの特徴的な部分である「フリン切断部位」の問題を詳述した。この部位は人体とウイルスとの接合性の観点で極めて重要な部位だ。ウェイド氏がノーベル賞受賞者で分子生物学のパイオニアでもあるデビッド・ボルティモア博士が述べた「フリン切断部位がウイルスの起源についての動かぬ証拠だ」との言葉を引用したのも大きかったのかもしれない。

それでも、ウェイド氏の議論が説得力があっただけで急激に情勢が変化したというわけではないと私は思う。というのは、ボルティモア博士同様のノーベル賞受賞のウイルス学者のモンタニエ博士によっても「研究所起源説」はずっと前から指摘されていたが、その議論はずっと無視されてきたからである。

先入観に寄らずに事実を究明しようとする動きが、アメリカ政府の内外で様々な妨害に屈することなくずっと続いてきたことが大きく、これがついに妨害勢力の堰を切って溢れ出したということなのだろう。

ところで、武漢ウイルス研究所へのアメリカ政府資金の提供に大きな役割を果たしてきたアメリカ国立アレルギー・感染症研究所のファウチ所長が予定していた新刊本「想定外を想定する」の予約注文が止められたことがわかった。ファウチ所長らがこれまで様々に「研究所起源説」潰しを行なってきたことが、逆に彼らを窮地に陥らせたということなのだろう。この流れは非常に興味深い。

また政界のみならず、マスコミや学術界にも広がる「リベラル派」の闇の深さが浮き彫りになった点にも注目したい。

さて、「バニティ・フェア」の記事はものすごく長文で、私がここにまとめたものの10倍以上の内容がある。まとめに際して内容の順番を入れ替え、わかりやすい表現に書き換えているところも多いので、原文のニュアンス通りだとは考えず、朝香流の味付けになっていると考えてもらったほうが適切だろう。その点はご理解いただきたいと思う。

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バニティ・フェアの画像
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