安全保障

モンテネグロにも債務の罠が! 反中同盟への流れは生じるか?(朝香 豊)


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旧ユーゴスラビアに位置する、バルカン半島の小国モンテネグロのGDP(国内総生産)はわずかに49億ユーロ(約6500億円)だが、ここに国力に不相応な高速道路が建設されている。

この高速道路はモンテネグロの南部アドリア海の港町バールとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ予定で計画されている。このうちモンテネグロ国内は170キロほどになるが、すでに工事の第1区間である41キロを完成させるのに9億4400万ドル(約1000億円)を中国からの融資で使ってしまった。全体が170キロのうちの41キロということは、1/4弱にすぎないが、この事業のためにすでに同国の経済は危機に直面している。全線が開通した時には中国からの借入金はいったいいくらになるのだろうか。

モンテネグロの対外債務はすでに同国のGDPの8割に達し、野心的な高速道路プロジェクト完成のためにさらに負債を負う余裕はないと、IMF(国際通貨基金)は同国に警告している。

中国からの借入金の返済できなかった場合、モンテネグロは主要インフラの管理権を中国へ譲らなければいけなくなる懸念は強い。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」のもとで、小国に払いきれない借金を負わせる「債務のわな外交」を展開していると非難されている。経済を借金漬けにして政治的影響力を強めるというものだ。契約上は法的な争いが起きた場合には中国の仲裁裁判所が裁判権を持つことになっており、中国が圧倒的に有利である。

通行料からの収益では、推定で年間7700万ユーロ(約100億円)とされる道路のメンテナンス費用さえ補えないと現政府は認めている。甘い政府見込みの4倍以上の交通量が確保できなければ、採算ベースに乗ることはないことも指摘されている。

公開入札も行われず、建設に関する決定は不透明な形で行われた。そのツケが回ってきたのだと指摘する声もある。モンテネグロ政府は財政規律を取り戻すため、増税、公務員の賃上げ凍結、母親向けの給付金廃止にまで乗り出した。ムラデン・ボヤニッチ氏は「建設を続ける資金源が見つからなければ、深刻な問題になる」ことを認め、EUに救済を要請している。

だが、モンテネグロと中国を財政的に助けて無謀な投資のツケをEUが背負い込むことには、EUの同意を得ることは甚だ困難を伴うことになる。

こうした問題を、モンテネグロだけでなく世界各国で中国は引き起こしていく。一見では中国の狡猾さが勝利するように見えるが、被害国が世界的に連携して中国に立ち向かっていくような事態も、将来的には起こりうるだろう。世界各国でナショナリズム的な反発が起き、これら諸国が連帯していくのを、中国はどこまで抑え込むことができるのだろうか。ウイルス拡散の賠償金と絡めて、世界的な動きが生じる可能性もあるのではないか。
  
 
 
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