農林水産省は大阪堂島商品取引所が申請したコメ先物取引の本上場を巡り意見聴取を行った。この意見聴取ではコメ先物取引について否定的な質問が堂島商品取引所に対して相次ぎ、堂島の米の先物市場が正式に復活する公算がなくなる流れとなった。このことを私は実に残念に思っている。世界の中で最も早く先物市場ができたのが、実は江戸時代の堂島の米市場であったこともその理由の一つだ。
先物市場というのは、まだ未収穫の段階での商品を売買するという、なかなか高度な仕組みである。次の米の収穫がどの程度の豊作になるか、凶作になるかは、収穫時期が来るまで確定しない。従ってその時の需要と供給のバランスがどうなって、価格がどう変動するかわからない。気温がどうなるか、雨がどうなるか、台風が来るかどうかなどで収穫量は大きく変わり、それによって価格は乱高下する。だから先物市場は投機的であるとして忌み嫌う意見もあるが、それは先物市場の半分しか理解していない見方だ。
農家からすれば、先物市場の存在が経営の安定に大きく影響する。全国的に大豊作になれば、米一俵の値段が10000円を切るようなことになってしまうかもしれない。もちろん全国的に大凶作で米一俵が20000円を超えることもありうるだろう。そうした中で先行きの見通しが全く立たない段階で平均的な米一俵15000円であらかじめ売ることができる条件を確保すれば、農家は収入を大いに安定させることができる。その後に価格がどんなに乱高下しようが、安定の経営を求める農家にしてみれば関係ないのである。日本でコメ先物取引が生まれた背景にも、この事情が関係している。
一般に商売というものは浮き沈みが激しいものだが、浮き沈みが小さくなれば長期的な経営を見通しやすくなる。農業によってご飯を食べている専業農家にとっては、こうした長期的な見通しが立つことは極めて重要になる。それを確立して専業農家を支援するためには、先物市場があることは非常に役に立つ。
サラリーマンとしての安定収入があり、週末だけ農業を行っている兼業農家にしてみれば、米の価格の乱高下はそれほど大きな意味はない。従ってここには、兼業農家中心の農業のままでいいのか、それとも専業農家中心の農業に変えていかないといけないのかという農業観が関わっているところがある。
専業農家中心の農業になれば、長期的な安定性が確保できることから、米を増産する可能性が高い。こうなると長期的には米価格は下落傾向を持つことになり、消費者にもメリットは大きい。だが、これは高価格を維持したい人たちからすれば当然歓迎できることではない。農協は高価格であるほうが手数料収入が増えるため、減反気味に推移することの方が好ましいと考えており、先物市場には反対の立場だ。
このため、農協は米の流通の7割を占めているにもかかわらず、試験的に行われてきた先物市場に一切参加しない姿勢を見せてきた。さらに言えば、農協は先物市場が広がることで現物市場の価格支配力を失うことも恐れている。そして今、参加量や参加者数が少ないことを理由にして、先物市場を本格的に復活させることが認められない方向に動いている。これが米の先物市場をめぐる全体的な構図だ。
堂島商品取引所の中塚一宏社長は、農水省の意見聴取に怒りをあらわにした。参加者数が少ないとする農水省の指摘に対して「どれほど参加者が必要か、ぜひ明らかにしてほしい」と詰め寄ったが、農水省は「私どもから何か説明する場ではない」としてこれには明確には答えなかった。
なお、米の先物市場は中国の大連に2年前に開設され、すでに大きなマーケットになっている。日本での米先物市場の本格復活がなくなれば、世界のジャポニカ米の指標価格は完全に中国が握るという残念な事態を迎えるのはほぼ確実である。
専業農家中心の農業に切り替えて、国際競争力を付けて世界に打って出る日本の農業を構想できない農水省のあり方には、疑問を感じざるをえない。
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大阪堂島米会所の画像
https://pbs.twimg.com/media/D6h8K1MUwAAziB2.jpg
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