あまり注目を集めないが、かなり重要な決定が国際通貨基金(IMF)で行われた。それはIMFが加盟国に対して「特別引き出し権」(SDR)について6500億ドル(約71兆円)相当の新規配分を決定したというものである。
SDRは米ドル、ユーロ、人民元、日本円、英ポンドの組み合わせ通貨のようなものだと思ってもらいたい。配布された通貨はそのままこれらの通貨の代わりとして利用することができることになる。IMFから割り当てられたわけだから、加盟国は割り当てられた分を自由に使うことができる。突然思いがけず発生した臨時収入みたいなものなのである。
IMFの表向きの狙いは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、経済への打撃が大きい低所得国などの外貨の確保を支援するというものだ。実際に低所得国が大きく傷ついているのは間違いなく、何らかの支援をする必要はあった。また、この新規配分はワクチンの確保とか医療設備の充実にもその一部は使われることになるのも間違いない。
だが、恐らく低所得国が真っ先に使うのはそんなコロナ対策ではないと思われる。こうした低所得国は「一帯一路」構想などに関連して、中国から莫大な融資を受けていることが普通だ。中国は借入国の返済能力を遥かに超えた貸付を行い、しかもその貸付に対して高金利を求めてきた。
そのためこれらの融資は返済の見込めない不良債権になる傾向が高かった。そこに今回のコロナ禍が襲ってきたことで、低所得国の返済はなお厳しい状況に追い込まれてきた。
従来は低開発国の累積債務問題については、西側先進国の集まりである「パリ・クラブ」で調整して対処してきた。だが、現在では西側先進国以上に中国が大きな貸し手になっており、「パリ・クラブ」内だけの調整では対処できない状態になっている。そこで「パリ・クラブ」側は中国にも累積債務問題に共同して対処するように呼びかけてきたが、中国はこれを拒否してきた。中国はどれほど多くの貸付をどのような条件で行っているのかをほとんど公表しておらず、これを開示して西側先進国と協調行動を取ることはどうしても避けたかったのだろう。それだけ怪しい融資をいろいろと行っているということでもあったはずだ。
この不透明な中国からの高金利の融資の返済を低所得国が最優先するのは間違いない。これは当該の低所得国を助けることにもなるが、滞っていた融資の返済がスムーズになることで中国が救われることになるのは確実だ。
さて、このスキームが動くにあたって決定的な役割を果たしたがアメリカのバイデン政権であることは忘れるべきではない。IMFは議案に対して85%以上の議決権の賛成を集めないと議案は成立しないが、アメリカはIMFの16.47%の議決権を有し、事実上の拒否権を持っているからだ。
実はトランプ政権は実はこのSDRの新規配布に反対していた。国民を弾圧するような中国、イラン、ベネズエラ、ロシアといった強権国家をも利して、その延命に力を貸すことになるからだ。
バイデン政権内部でもイエレン財務長官は、中国の一帯一路の返済資金に優先的に使われるのは明らかだとして、実は反対していた。だが、結局バイデン政権がこれを認めたことで、IMFは実施にこぎつけられたことになる。
そして恐らくこの決定の背後では、中国による強烈な根回しが動いていたのは間違いない。その仕組みの中にIMFも絡め取られているわけだ。
国際秩序の構築を考える場合に、悪平等主義を前提とするのではなく、国際ルールを守らない国を排除するような仕組みが必要なのではないかと改めて感じた。
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