リーマン・ショックが起こった時に、中国は4兆元(60兆円)にも及ぶ財政政策を打ち出し、世界経済を牽引した。
今回は新型コロナウイルスにより、リーマン・ショックよりも遥かに大きな被害が生まれているから、さらに大きな財政政策を中国は出動させると思いきや、今回は前回に比べるとやや控えめであるように見える。
今年はまだ全国人民代表大会と中国人民政治協商会議が開かれておらず、経済方針が確定していないせいだという話もあるが、おそらくはそれだけではない。
リーマン・ショック時に無理をして作ったインフラは、採算度外視であったために、お荷物になっているものが多いからだ。
「鬼城」と呼ばれる、ほとんど誰も住まないマンション群は、その代表だと考えればいい。
そこで中国政府が今回打ち出しているのが、「新基建」と呼ばれるものである。
2018年頃から言われていたものであり、その意味では新しいものではないが、コロナショック後の経済浮揚の切り札のように考えられている。
「新基建」とは、「新型基礎設施建設」(「新型インフラ建設」)の略で、5GネットワークやAIなどのデジタルインフラや、電気自動車の充電スタンドや高速鉄道技術などの新交通インフラなど、未来を切り開いていく新しいタイプのインフラの構築だ。
中国銀行研究院によると、2020年の「新型インフラ」の重点7分野への投資総額は約1兆2000億元(約18兆円)にのぼるという。
実はこうした動きに、欧米の企業も高い関心を見せている。
例えば、アメリカの半導体メーカーのクアルコムのアモン社長は、「中国は将来最大の5Gネットワークを持つ可能性が高い」とした上で、クアルコムの中国でのビジネスに「めちゃめちゃ興奮している(super excited)」とコメントし、中国市場への期待を隠すことなく表明している。
現実問題として、クアルコムの売上の65%が中国マーケットだと言われており、輸出管理改革法(ECRA)で中国への製品提供をトランプ政権が規制しようとしても、会社としては「はい、わかりました」というわけにはいかないところがあるわけだ。
実際、5G対応のスマホ向けのチップセットの「スナップドラゴン865」は、中国への禁輸商品にはなっておらず、中国のスマホメーカーが相次いで採用している。
トランプ政権の対応が甘いという批判もあるだろうが、こうしたものを止めたら、クアルコムが潰れてしまうだろう。
そしてこれは当然他の企業にも通じる話であり、アメリカ企業に限る話でもない。
製造業における中国の存在感があまりにも圧倒的に大きくなってしまったので、西側企業の中国の切り離しは簡単にはいかないのが実際なのだ。
さて、日本もアメリカもヨーロッパも、新型コロナウイルスの感染拡大で、経済は全く正常に作動していない。
リベラル派が大きな力を持っている国々では、「命の大切さ」を前に、経済を後回しにする政策が当然だとされていて、経済が本格的に回復するのは、まだまだ先にならざるをえないだろう。
これでは企業は西側の需要だけでは利益が出せる見込みは立てにくく、巨大な中国市場を当てにすることを責めるわけにもいかないのだ。
中国が「新基建」を打ち出し、魅力的なマーケットを外資に対しても開いてくれているということを考えてもらいたい。
ここに西側企業が吸い寄せられるのは、現状ではある意味では必然ではないだろうか。
では、どうすれば、中国に負けないようにできるだろうか。
中国が訴える「新基建」は、「第4次産業革命」とか「インダストリー4.0」とかなり似た概念だと思っていいと思うが、こうした分野での巨大投資を誘発できるプロジェクトを、西側諸国で政府主導で一気に巻き起こすなら、勝算はあるだろう。
中国市場などに頼らなくても、十分に企業の供給を充たせるだけの市場を内部で作り上げていくわけだ。
こういう方向性を打ち出さないと、西側は勝てないかもしれない。
そういう危機感を我々は持たねばならないのではないだろうか。
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