台湾の蔡英文総統は中国政府の顔色を窺うような、やや曖昧な姿勢を取ることが多かったが、このところは力強い姿勢に変化してきた。
この中で注目されるのが、「我々には、自分たちが独立主権国家だと宣言する必要性はない。(中略)我々はすでに独立主権国家であり、我々はこの国を中華民国、台湾と呼んでいる」と発言したことだ。
この発言は明らかに従来の立場から踏み出し、「中国からは独立した国家としての台湾」という立場を示したものであり、中国の言う「一国二制度」を拒絶する考えだ。
この背景には、大きく2つの要因があるのだろうと思う。
1つ目は、蔡英文政権が最近はアメリカの強い後押しを受けるようになっていることだ。
アメリカは台湾旅行法を制定し、米台間の高級官僚の相互訪問の促進を図り、これにより蔡英文総統の訪米が実現された。
アメリカはさらに中国の脅威に対抗するためのアジア再保証推進法を制定し、台湾に対して戦車108両や携帯式の地対空ミサイル250基に加え、F16戦闘機66機の売却を決め、台湾の軍事力の抜本的強化を承認した。
こうしたアメリカ側の後ろ盾があって、蔡英文総統は親米路線に思い切って舵が切れるようになった。
2つ目は、台湾の若者たちの意識の変化である。
台湾の有力経済誌「天下雑誌」の世論調査によれば、自分を台湾人だと思うか、中国人だと思うか、両方だと思うかという問いに対して、20~29歳の82.4%は、自らを台湾人とだけ思うと答えた。
ちなみに40歳以上の年齢層では、全てで60%弱に留まっている。
2018年に台北にある国立政治大学の選挙研究センターが実施した世論調査によれば、中国が武力により台湾を併合しようとした場合に戦うつもりがあるかという問いに対し、20~39歳の71.6%が「イエス」と回答している。
これと同じ調査を現在行ったら、香港のひどい有様を見てきた台湾の若者が「イエス」と答える割合は、もっと高くなっているのではないかと思う。
台湾では主要メディアは中国系の支配下にあることが多く、主要メディアばかりに馴染んでいると、自然と親中的な色合いに染まることが多い。
スマホなどを介してネットで玉石混交の様々な情報を取って自分で判断することに慣れた世代は、主要メディアに染まる度合いが低いのだろう。
そして、2014年のひまわり学生運動で活躍した世代が若い力となって、民進党の新しい力になってきている。
自由と民主主義を大切なものだと考え、それを守るためには命を張って戦う覚悟を持つ世代がどんどん強くなっていることを、蔡英文総統も感じているのであろう。
ところで、意外なのは、中国共産党機関紙の「環球時報」が「台湾情勢の総態勢を客観的に見る」と題した社説を掲載したことだ。
この社説では、台湾人の大半が中国に恐怖を感じていて、中国との統一に背を向けるのが台湾の民意として存在することを認めているのだ。
さらに注目すべきは、この社説には習近平政権の台湾政策で必ず使われてきた「一国二制度」という言葉が、一切出てこないのである。
これは習近平政権が進めてきた台湾政策が間違ったものだということを、暗に匂わせたものだろう。
もちろんこれが中国共産党全体の考えだというわけではない。
習近平政権としては、あくまでも「一国二制度」の旗を降ろすことはないだろう。
それでも、中国共産党内部での意見の分裂があることを、この社説は教えてくれる。
蔡英文総統が踏み込んだ発言の背景の一部には、こうした中国共産党内部の意見の分裂を感じ取ったということも、ひょっとしたらあるのかもしれない。
歴史の動きを感じる。
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これの元ネタとなるニューズウィークの記事
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/01/post-92141.php
https://www.newsweekjapan.jp/sekihei/2020/01/post-5.php
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