安全保障

リトアニアが中国との経済協力枠組みから離脱! EU対中国を象徴!(朝香 豊)


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リトアニアのランズベルギス外相は、中東欧17カ国と中国との経済協力枠組み「17+1」から離脱したことを公表し、他の国も「17+1」から離脱するように促した。この枠組はできてから10年目に入った中国主導のブロックで、参加しているヨーロッパ諸国は旧ソ連圏に属していた国が多い。リトアニアは3月に台湾に通商代表事務所を開設することを決めたほか、リトアニア議会は5月20日にウイグルでの「ジェノサイド」を認定する決議を可決していることでも知られる。

ランズベルギス外相は、「27のEU加盟国がEUの政府機関とともに行動する時、EUは最強になる」「27カ国の団結は、EUと外部のパートナーとの関係をうまくいくようにさせる鍵である。中国との関係も例外ではない」と述べた。

このリトアニアの動きはEUと中国との最近の関係を象徴するものとなっている。EUは昨年の12月にEU中国投資協定締結で合意に至り、議会の同意を残すのみとなっていた。だが、ウイグルの人権問題に関してEUが実質的には形ばかりの対中制裁を実施しただけのことが、思いがけない中国の過剰反応を招くことになった。中国がEUに対して報復制裁を加えたことから、EU側もEU市民の手前引っ込みがつかない状態になった。EU議会は投資協定の承認手続きを「凍結」するとの決議を、賛成599、反対30で可決した。中国の報復制裁は根拠がなく恣意的なもので、言論の自由への攻撃に等しいとして、EU議会は強く中国を非難した。

習近平政権による上から目線の戦狼外交姿勢がEU市民の間に余計な摩擦を生んでいるわけだ。今後中国側がウイグルや香港の人権状況の改善に動くことは考えにくく、中国とEUとの関係改善が進んで経済的な結びつきを深めることは今後は考えにくくなった。

中国はまた、中国のCO2放出に批判的な姿勢を示したスウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥンベリ氏に対しても噛み付いた。トゥンベリ氏を支援してきた環境保護系の法律事務所「アースジャスティス」と中国との間には深い関係があることが指摘され、米下院天然資源委員会は外国代理人登録法に基づき、「アースジャスティス」を「外国代理人」(中国の主張の代弁者)として登録する可能性を示唆してきたほどだ。こうしたことが関係してか、トゥンベリ氏が中国批判をすることはこれまでなかった。

それゆえに中国の二酸化炭素年間排出量が2019年にはすべての先進国の合計排出量を上回ったとの報道を受けて、トゥンベリ氏がこれまで見られなかった中国批判を行ったのは、中国側にすると「裏切り」のように見えたのかもしれない。中国共産党系の新聞「チャイナ・デイリー」は驚くことにトゥーンベリ氏の太めになった体型をあざ笑い、「彼女はベジタリアンと主張しているが、成長状態から察するに、彼女の二酸化炭素排出量は少なくない」との「批判」を行った。これに対してトゥーンベリ氏は「中国の国営メディアから太っていると辱められたことは、私の基準から見てもかなり奇妙な体験である。私の履歴書に必ず記すことにする」との回答をツイッターを通じて行った。

トゥンベリ氏がスウェーデン人であることから、この一連のやり取りがEU市民に対して中国に対する圧倒的な不快感を与えたのは間違いないだろう。体型を揶揄したことも人権に敏感なEU市民には到底受け入れがたいものだろう。

オンライン形式で行われた世界保健サミットの場で、EUと中国はアフリカをはじめとする発展途上国の支援においても対決姿勢を見せた。EUが低所得国に対し1億回分のワクチン提供を表明し、アフリカでのワクチン製造拠点整備に投資するとの姿勢を見せたことに対して、中国共産党の習近平総書記は「われわれは各種の政治問題化に断固反対する」と反発した。そしてワクチン特許権の一時放棄を求めることに賛同する姿勢を見せ、これに難色を示すEUに対して揺さぶりをかけた。

さて今後、リトアニアに追随する国がさらに現れ、それに対して中国がまた過剰反応を示すというようなことが続くことが予想され、そうしたことが起こるたびにEU市民の間での反中国感情は高まることになる。EU内の経済界が中国との関係強化を望んだとしても、これが進む条件は消えたと見るべきである。

こうした感情的なしこりからEU側が中国側の弱点を今後探すようになるとすれば、中国の各種統計に対して疑念を向ける動きが出てくるかもしれない。これにより中国経済のリアルがわかるようになれば、中国投資を控える動きが強くなり、むしろ中国からの撤退を促す方向につながるだろう。

こうなると「それでも習近平が中国経済を崩壊させる」(WAC)に記したような流れが現実化していくことになる。

 
 
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