経済

資本論をブームとして持ち上げるNHK ! 実は自らがブームの火付け役のマッチポンプ!(朝香 豊)


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およそ150年前に資本主義のメカニズムを分析した思想家、カール・マルクスの「資本論」への関心が高まり、関連する書籍が人気を集めているとの報道がNHKでなされた。

NHKは「100分de名著」という番組で資本論を扱ったが、このときのナビゲーター役に抜擢されたのは「人新世の資本論」を書いた齋藤幸平・大阪市立大学准教授である。NHKは「資本論」や「人新世の資本論」を積極的に押し出す動きに出ている。自らブームを作り出す動きを起こし、それによって実際にブームが起きると、それを報道に使って煽る。それは数年前にあった「蟹工船」とか「君たちはどう生きるか」のブームを作り上げたのと同じ流れである。NHKの本質が左翼であることを、今回も自ら語ったような流れになっている。

私が筑波大学の古田博司先生とWiLL誌上の対談で批判した「人新世の資本論」が相当なベストセラーになっているのは事実である。今年の2月だったと思うが、私の地元の柏にあるジュンク堂で同書の店内在庫を確認したら87冊あるとの表示が出た。在庫をそれだけ抱えていても捌ける本だという評価を、ジュンク堂はしているようだ。今回のNHKの報道によると30万部の異例のベストセラーだそうだ。私が同書を購入した2月の段階では確か20万部だったから、さらに販売が大きく伸びているようだ。

齋藤幸平氏は従来のマルクス理解を完全に否定しているところに新しさがある。すなわち、マルクスの文献としてこれまで出版されてこなかった遺稿の中に、それまでのマルクスとは全く違った考えが数多く出されていて、従来のマルクス理解によるマルクス批判は正しいマルクス批判になっていないという論理である。

斎藤氏は地球温暖化問題が従来の資本主義の発展方向を否定するものとなっており、このままでは人類が滅亡するかのように危機感を煽る。彼が論拠としているのは、温暖化論の中でもエキセントリックな極論であり、自分の都合のいい情報だけを間違いなく拾っている。そこには事実ベースにものをみようとする姿勢はない。

彼の論理で行けば、私たちは今の豊かさを捨てるべきであり、それが真の豊かさをもたらすことになる。彼はその点でSDGsとかESG投資といった現代社会で進んでいる流れでも不十分であるとして切り捨てる。彼の論理で行けば、人間には鉄道も自動車も飛行機もいらないということになる。そんなものがなくても、人間は豊かに生きられるという考え方だ。だがそのことを彼が明示的には書いていないところは気をつけるべきだ。

電力だって大型の発電所なんていらないとし、マイクロ水力発電のような、自然に対する負荷の小さい発電だけでいいと考えている。そのようなもので電力を賄おうとした場合に、我々が使える電力が現在の1/100どころかもっと少なくなるのは間違いないが、そのような電力に依存しない生活のほうが豊かだと彼は考えている。こうなると、夏の冷房も冬の暖房も賄えない。私たちの考えている当たり前の暮らしを完全に否定しているところに「豊かさ」を見ているのは理解できるだろう。

彼はこのようにして私たちの資本主義社会の解体を求めているわけだが、目下の私たちの最大の課題である中国の扱いについての言及が全くない。ここは彼の論理の大きな欠陥である。

また彼は安易に「民主的」という言葉を使うのだが、社会主義者の使う「民主的」という言葉は、資本主義に普通に生きる私たちが捉える「民主的」とはもともと意味が違う。北朝鮮が「朝鮮民主主義人民共和国」を名乗っているのはよく知られた話だ。あの中国も自分たちの国は「民主主義国」だと宣言し、西側とは「民主主義」の意味が違うだけだと主張している。自らが使う「民主的」という言葉の定義を明確にせず、多くの人が誤解することを意図しているかのようである。「民主的」の言葉の定義を明確にしていないのも彼の問題点である。

彼は資本主義の経済的効率性を切り捨てることを正しいと考えているわけだが、そうなると現在安価に入手できるものが全くそういうものではなくなることを理解しているとは思えない。彼は経済原理を理解していないようで、この点も彼の大きな問題点である。

そして最大の問題点は、現在70億人を突破したとされる世界人口を前提に、彼の理論が成立するのかを全く考えていないことだ。彼は意図的にこの点を隠しているのかどうかはわからないが、その点がどちらであるにせよ、私は彼に知的誠実さを感じない。

このような本をNHKはわざわざ取り上げてブームをさらに焚きつけようとしている。そこにNHKの歪んだ姿が浮かんでいると思うのは、私だけではあるまい。

「人新世の資本論」を完全に論破するだけでなく、人類はどう進むべきかを明らかにする本を、来年には世に問うつもりでいる。楽しみにしていてもらえたら、ありがたい。
  
 
 
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