パキスタンのカラチにある証券取引所が武装グループに襲撃され、少なくとも警備員・警察官など6人と武装グループのメンバー4人が射殺されるという事件が起こった。
取引所を占拠してパキスタン経済に打撃を与えようとしたのが、失敗したということのようだ。
「バロチ解放軍」が犯行声明を発表した。
「バロチ解放軍」は、パキスタンの西南に位置するバロチスタン州の分離・独立を求める武装勢力の1つだ。
そしてここには、古い因縁がある。
バロチスタンには今は多くの民族が住んでいるが、最大勢力は州の名前とも関係が深いバロチ人だ。
イギリスの植民地支配から独立した時に、バロチスタンはパキスタンとは別に独立を目指したが、結局武力制圧されてパキスタンに併合されたという歴史がある。
そしてバロチスタンの人々は、パキスタン政府に差別されていると考えている。
例えば、バロチスタンからは豊富な天然ガスが産出されているが、バロチスタンでは一部の都市部でしかこのガスを利用できず、しかも1日に供給されるのは6時間に限られ、ガス圧力も小さい。
これに対する大規模な抗議デモが発生し、鉄道が止められる騒ぎになったこともある。
こうしたことから、反政府勢力が武力に訴えることも多く、これに対する政府の弾圧も激しいものとなっている。
政府側に殺されて捨てられた遺体が1000体ほど発見されている。
さて、一帯一路構想で重要な役割を果たす「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)と呼ばれる経済開発事業では、バルチスタンとの関わりは大きい。
この構想ではバロチスタンにあるグワダル港が重要な役割を果たすのだが、グワダル港の収益の9割以上が中国企業に入り、グワダル港の労働者も中国人ばかりで、さらにこうした労働者を相手に商売をするのも中国人ばかりとなっていて、バロチスタンとしてのメリットはほとんどないからだ。
バロチスタンが仮に分離・独立すると、これはパキスタンのみならず、中国にも大打撃になる。
こういう不安定さをパキスタンが抱えているというのが頭にあると、事件の意味合いに理解につながるのではないかと思う。
なお、報道で非常に違和感を感じたのは、この事件で死亡した人数に、犯人側4人が含まれていない形で報道されていることだ。
現地発表の報道をそのまま流しているということなのだろうが、犯人は「人」ではないということなのか。
マスコミの報道姿勢にも問題があるわけだが、パキスタン政府がバロチ人をどう見ているのかの傍証にもなるのではないかと思う。
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