朝日新聞が5月10日の社説で、「プーチン演説 許されぬ侵略の正当化」との記事を掲載した。
この社説の中で朝日新聞は、ナチスドイツに戦勝した記念日に演説を行ったプーチン大統領に対して、かつて世界を苦しめた侵略を現代に再現させた罪深さを悟り、ただちに戦闘を停止すべきだとの主張を行っている。
この主張自体には、もちろん特に大きな問題があるわけではない。
「先制攻撃するしかなかった」「世界大戦の惨禍を繰り返させない」といったプーチン大統領の主張がおかしいという朝日新聞の指摘にも、完全に同意する。
だが、今回問われている問題は、そんな「キレイゴト」の話ではまったくないことに、朝日新聞は今なお気が付いていないのであろうか。
今回の重要な問題は、強権国家が他国を自分たちが自由に扱うことのできる勢力圏だと勝手にみなして、無茶苦茶なことをやりうることを、はっきりと示したということではないのか。
さらに言えば、こうした侵略に対して、アメリカやNATO陣営が、軍事的な対抗処置を取らないことを明言した上で、侵略を思いとどまるように外交的な説得を積み重ねてみても、全く無力だったという現実ではないのか。
今回プーチンの説得にあたったのは、アメリカのバイデン政権だけではない。イギリスのジョンソン政権も、フランスのマクロン政権も、ドイツのショルツ政権も、それぞれ真剣に外交交渉を行ってきたのではなかったか。
そしてロシアによるウクライナ侵略の直前には、ウクライナはヨーロッパ諸国の激しい圧力を受けて、NATOへの加入を事実上断念していた。この点では、ロシアにとって極めて大きな外交的成果まで得ていたのではなかったか。
それでもプーチンは屁理屈をこねて、ウクライナを侵略していった。これが現実だったわけである。
さて、プーチンの計算間違いによって、ロシアは今大変な危機に陥っているが、プーチンの計算通りに行けば、ウクライナはとっくにロシアの手に落ちていたわけだ。その時に「ロシアはひどい」「ロシアは野蛮だ」と西側が口汚く非難したところで、聞く耳持たずだったのは明らかだ。
もちろんその時も西側の制裁は行われていただろうが、ブチャの惨劇などが発生せずに、あっという間に首都キーウの制覇にまで進んでいれば、今ほど厳しい制裁にはならなかっただろう。
つまり、「ヤリ得」になってしまうということもありえたというのが現実なのである。
「侵略はけしからん」「国際法を守れ」と主張することに意味がないとは言わないが、問題は軍事的に対抗することもあるという姿勢を見せないと、こうした強権国家を押し止めることができなかったことだ。この現実を前に、私たちが自国の防衛をどうすべきか、世界の安全保障体制をどう築くかが、問われている課題である。
手前勝手な理屈で支配領域を広げようとしている、ロシア、中国などの強権国家に、世界を思うようにさせたいと、朝日新聞は考えているのだろうか。そうとでも考えないと、こうしたキレイゴトだけを主張するのは許されるものではない。
ところでこの社説には、さらに驚くべきことがある。なんと、朝日新聞は「欧州を解放した当時のソ連の役割は史実」だと述べているのである。
確かにヨーロッパはナチスからは解放されたのかもしれないが、東欧諸国はその代わりにソ連による激しい蹂躙を受けたのではないか。この蹂躙を歴史から消し去って、「解放」とのみ伝えるところに、朝日新聞の本音がはっきりと出ているとは言えないだろうか。
朝日新聞は本音では、今でも社会主義・共産主義が理想なのであろう。
こんな主張を、バルト三国、ポーランド、ルーマニアといった東欧諸国に対して、朝日新聞は本気で主張できるのか。東欧諸国の大使館は、朝日新聞に対してしっかりと抗議すべきではないか。
朝日新聞はやはりアカヒ新聞あり、自由・民主主義・基本的人権の尊重・法の下の平等といった、私たちが現体制のもとで享受している様々な基本的価値観が、中国によって蹂躙されることを願っているということではないのか。
もしそうでないと言うなら、私のこの立論に対して、明確な反論を期待する。
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朝日新聞の社説
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15288767.html?ref=mor_mail_editorial
プーチン演説の画像
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