RCEP(東アジア地域包括的経済連携)が年内締結に向けて15日にも合意に達する見通しも出ている。
この件について多くの誤解があり、その誤解に基づいた不正常な反対論が展開されている。
まずこのRCEPを「中国が主導する」という言い方をする人が多いが、そもそもここが大きく違っている。
中国がもともと考えてきたのはEAFTAと呼ばれる「ASEAN+3(日本・中国・韓国)」であり、協議内容はほぼ関税削減に集中するものであった。これに対して日本が考えてきたのはCEPEAと呼ばれる「ASEAN+6(日本・中国・韓国・インド・オーストラリア・ニュージーランド)」であり、投資や知的財産権のあり方まで含むより包括的なものとすべきだというものであった。
RCEPは明らかにCEPEAをベースにするものであり、中国主導のものではない。インド・オーストラリア・ニュージランドを協議に加えることで、中国のゴリ押しを抑制してきたものがRCEPである。
秘密交渉で行われているので、最終的な形がきちんとは見えていないが、日本が不利になり中国を利するようなものになっているに違いないというのは、明らかに誤解だと考えていい。
これに関連して、RCEPはゆるい協定なので、関税が減って知財を侵害した海賊版の類がますます日本に入って来るようになると言っている人もいるようだが、こういうものはデマだと言っていい。
むしろ日本が求めた高い知財基準によって、違法ジェネリックの摘発が厳しくなることについて「国境なき医師団」が反対を表明しているくらいだ。
そういう「問題点」が指摘されるほどのレベルの知財規定が盛り込まれているわけだ。(ただしTTPよりは恐らく低いとは思う。)
RCEPが「緩い」のは事実だが、それは主として関税の撤廃率の問題についての評価である。中国からの輸入に対する関税の撤廃率は56%、韓国は49%というように報道されているように、全品目について関税の撤廃が求められているわけではない。
日本の思惑としては加工業務用のタマネギ・ネギは輸入より国産への切り替えを進めたいという「わがまま」があるのだが、なんとこれらについては関税削減・撤廃の対象から外されていると日本農業新聞は報じている。
つまり、それぞれの国で敏感だとされるものについては、関税によって守ることを相互に認めるようにしているので、関税の撤廃率が低いことになるわけだ。
そもそも日本は関税を課している商品がもともと少ないので、関税が例えば50%撤廃されたとしてもそのことの影響は少ないが、広い商品に関税をかけてきた国ではその影響は大きいことになる。
つまり、日本からの輸出の機会はこれによって増えることになる。
次にインドが離脱した理由についてである。敵国となった中国とは自由貿易協定など結べないというのがインドの考えだなどと煽る見解があるようだが、それは過去の交渉を見ていない人だろう。
中国からの輸入が増えることへの懸念もインド側は持っているのは確かだが、実はそれだけではない。
インドが強く求めてきた人の移動の自由について、日本が最後まで消極的な姿勢を崩さなかったことにインドは大きな不満を持っているのである。
「域内の人の移動が原則自由になる、そんな移民自由化を認めればこれまで以上に中国人が自由に入って来るだろう。だからRCEPには反対だ」という人も多いわけだが、それは誤解というものだ。
またRCEPはASEAN諸国が抱えている問題の解決のためという性格がもともと強いものである。
ASEANは日本とも中国ともオーストラリアともそれぞれ別々のFTA(自由貿易協定)を結んでいるが、それぞれの協定で言葉の定義が違っているために混乱が生じているところもあるわけだ。
例えばASEANが日本から材料を輸入した上でASEANで加工して中国やオーストラリに輸出した場合に、ASEANで作った部分が何パーセントだと考えるかの計算方法が、中国に輸出した場合とオーストラリアに輸出した場合で違っているというようなことが起きる。
したがってこうした用語について統一した内容を定め、それをRCEP加盟国の間で共有化させたいというのがASEAN諸国の求めとして大きかった。
したがって、RCEPからの離脱というのはこうしたASEAN諸国を裏切ることになってしまう。
ましてや親中派の管総理がアメリカ大統領選挙後の混乱のどさくさに紛れてこのようなとんでもないものをぶち込んできたというのは、悪意があるにもほどがあると思う。
2020年内での最終合意は安倍内閣の昨年段階ですでに決まっていたことであり、別に管総理が特にこの段階で持ち出してきたものでもないのである。
インドの離脱がなければ、恐らくすでに締結されていたものでもある。
もっともRCEPは完璧なものではないし、中国を利する部分があるのは事実だ。
だからと言ってRCEPから日本が離脱すれば、それはASEAN諸国に対する我が国の裏切りになる。
反対論を口にするのは構わないが、最低限ここまでの理解をした上で語るべきだろう。
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nhkからの引用画像(RCEP)
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