政府は9月1日に発足するデジタル庁の事務方トップである「デジタル監」に、伊藤穰一氏を起用する方向であることに対して、批判が高まっている。
伊藤穰一氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボ所長だった時に、性犯罪者であるジェフリー・エプスタインから匿名の寄付を受け取っていたことが発覚して、MITを追われた人物である。こうした過去の経歴から見て、伊藤氏は好ましくないのではないかとの批判が噴出しているわけだ。伊藤氏はエプスタインからメディアラボのために52万5,000ドルの資金提供を受けていた。
多くの反発が来ることを予想しながら書くが、私は伊藤氏のデジタル監就任に賛成の立場である。このことをまずエプスタインから受け取った寄付について考えることから始めたい。
大学に対する寄付は様々な形で行われる。売名行為で行われることも多い。有名人が多額の寄付を行い、それがマスコミで報道されれば、その評判を引き上げることができる。売名行為だからといって批判する気は私にはさらさらない。むしろそういう感じだけで寄付が集まるのであれば、その方がドロドロとしたものがない分却っていいかもしれないとも思う。
何か悪いことをした人が罪を軽くしてもらうために行う寄付というものも考えられるだろう。「いいこともやっている」と思ってもらえれば、風当たりは弱くなるかもしれない。
企業が行う寄付は当然ながら研究成果を受け取りたいとか、研究者との人的関係を深めておきたいという実利に基づくものである。
一方で匿名の寄付というものもある。これは陰徳から来ている場合も当然あるが、必ずしもそうであるばかりではない。表に名前を出すと何かと都合が悪いので、敢えて隠しながらも、大学側に様々な圧力を掛けるのに使われている場合もある。例えば中国からの寄付がこれにあたることが多い。
バイデン大統領と関わりの深いペンシルバニア大学の「ペン・バイデンセンター」は、まさにこの匿名の多額の寄付金を中国から受け取っていたことで知られる。ちなみに同センターの理事長(Managing Director)はアントニー・ブリンケンであった。言わずとしれた現在の米国務長官であるが、この問題はなぜかほとんど追及されていない。
さて、エプスタインからMITメディアラボへの寄付は匿名で扱われた。つまり、エプスタインはMITへの寄付を行っているということで、自らの罪を軽くしようとしたわけではない。そういう面でのメリットはまったくないのである。
エプスタインがMITメディアラボから何らかの見返りを期待したかどうかはわからないが、仮にあったとしてもそれは決して同ラボの研究内容を歪めようというものだったとは考えにくい。そもそも同ラボは一般的なテーマに拠出することしか認めていない。それは寄付者が企業であっても同じである。
同ラボからエプスタインに性犯罪に利用できるような技術的成果が流出したというのであれば、それは絶対に認められないが、そのような話も一切出ていない。
伊藤穰一氏が性犯罪を犯したという話も一切ない。伊藤氏がエプスタインと個人的な知り合いであったのは事実だし、そういう関係から寄付を受け取る側になったのも事実だが、これらの一連の流れの中に問題となる性犯罪は一切関与していないと見てよいのではないだろうか。エプスタインとの関係があったことに気持ち悪いものを感じる人の気持ちは理解できるが、それが伊藤氏を全否定するような見方につながるべきだとは私には思えない。
確かに伊藤氏とエプスタインとの関係はかなり深いとは言えるだろう。伊藤氏はエプスタインの資金120万ドルを自らの個人投資ファンドで受け入れていたことも認めた上で、この資金を返金することを行っている。我々の日常感覚からすればこの金額は相当に大きいが、彼らのようなトップレベルの投資家たちからすれば、恐らく特別な金額だと意識するようなものではないだろう。
さらに言えば、エプスタインからの寄付をMITメディアラボで受け入れるかどうかについて、伊藤氏はMIT側に相談し、匿名での処置にするように指示されていたこともわかっている。少なくとも伊藤氏だけが特別に重たい責任をかぶるようなものではないだろう。
伊藤穰一氏はまさに天才肌の人物である。まだ彼が10代だったインターネット以前のパソコン通信時代に、多人数が参加するコンピューターゲームのプラットフォームを自作して遊んでいたような人である。タフツ大学やシカゴ大学に入学したものの、やっていることがばからしく時間の無駄だと感じ、どちらも中退している。
1997年に警察庁情報セキュリティビジョン策定委員会委員にネットワークセキュリティ専門家として請われ、日本の警察庁ハイテク犯罪対策室立ち上げに関与してもいる。この時彼の年齢はわずか31歳である。
2011年にMITメディアラボ所長に日本人として初めて就任した。MITメディアラボはデジタル技術の世界トップクラスの研究所であり、そのトップに45歳で招かれたところにも彼の非凡さが表れている。
これだけの人材はなかなか得られるものではない。エプスタインの騒動が炎上して、彼がMITのみならず、ハーバード大学、ニューヨーク・タイムズなどなどの数々の役職から去らなければならなくなったがゆえの、ある意味チャンスでもある。
日本の遅れたデジタルレベルを一気に引き上げるために、伊藤穰一氏に大いに活躍してもらいたいと思う。利便性とセキュリティーの両面に睨みを効かせながら、これまでにないような革新的技術のアイディアを打ち出していくことを、伊藤氏には期待したい。
以下はTed Talkでの彼のスピーチである。彼の真っ当な感性をこのスピーチからも感じ取ることができるのではないだろうか。
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ハーバード大学のレシング教授のエッセイ
https://medium.lessig.org/on-joi-and-mit-3cb422fe5ae7
伊藤穰一氏の謝罪コメント
https://www.media.mit.edu/posts/my-apology-regarding-jeffrey-epstein/
apnews.comの記事
https://apnews.com/press-release/news-direct-corporation/joe-biden-antony-blinken-greater-china-international-relations-asia-bd1679d48409a63d7c62ff08c28c50b5
ja.wikipedia.orgの記事
https://ja.wikipedia.org/wiki/伊藤穰一
伊藤穰一氏の画像
https://courrier.jp/media/2018/03/21023121/s_GettyImages-545487350-1.jpg
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