日本のイメージで中国の行政単位を見てはいけないという話がある。例えば、日本だと「県」の方が「市」より大きい行政単位だが、中国だと「市」の方が「県」よりも大きい行政単位になっている。例えば武漢市と聞けば、日本の名古屋市とか大阪市くらいの大きさをなんとなくイメージするのが日本人の感覚としては普通だと思うが、それが実際には北海道くらいの広さを持っていたりする。
「県」や「郡」より小さい行政区画に「郷」「鎮」「街道」と呼ばれるものがある。このうち「街道」は都市部に置かれる行政区画だが、イメージ的には小学校や中学校の学区くらいの大きさのものが行政区画となっているものだ。
中国共産党中央委員会と中国国務院(内閣)は連名で「基層治理体系の強化と治理能力現代化に関する意見」を発表し、政権の基層組織の「体系強化」の一環として、「郷」「鎮」「街道」に「行政執法権」を付与した。「行政執法権」とは、言うことを聞かなければ財産を没収したり、身柄を拘束したりできたりする権利だ。
中国では役人が権力を背景に、一般の庶民に理不尽な仕打ちをすることが多い。例えば農民から耕作地を取り上げて、土地使用権を不動産ディベロッパーに売り渡し、その中で様々な利権を手にして濡れ手で粟のボロ儲けをするといったことが行われている。
そのため、中国政府はこれまで「県」「郡」以上の組織にしか行政執法権を認めてこなかった。それ以下の小さな組織にまで行政執法権を認めれば、この悪用がとんでもないレベルになることがわかっていたからだ。
ところが習近平はこの従来の常識を覆すような指令を出した。これは今後一般庶民の側からの不平・不満が高まることを予測した上で、これを力づくでねじ伏せる必要性が高まっていると判断しているだろう。しかもこれを「地方分権化」だと言ってのけるところがさすがである。
この処置は中国の体制にとって吉と出るのか、凶と出るのか。
現在中国国民の生活状態はどんどんと悪化している。庶民も苦しいが、役人も苦しい。財政状況の悪化を受けて、役人はボーナスや諸手当をカットされたりもしている。
この中で末端の役人に行政執法権を与えてしまえば、一般庶民に対する理不尽な行為は一気に広がることになる。生活が困窮化してきている庶民からすれば、こうした役人の横暴の拡大はとても許されるものではない。こうなると、体制の安定化を図るために行政執法権の拡大を行ったはずだったのに、却って行政執法権の拡大によって庶民の不満が高まり、暴動などが頻発することになりかねないのである。
こうしたことが予測できないほど、習近平がアホだということでは恐らくないと思う。想像の域は出ないが、そのことを理解しながらも、そうせざるをえないところまで中国共産党は追い詰められているのではないだろうか。
見た目としては習近平独裁体制がどんどんと強化され、ますますその体制は強固になっているように感じるが、実際にはその内実はボロボロなのであって、意外と簡単に崩れかねないところに至っている…このように見るのが合理的な見方ではないだろうか。
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